・・・んに意見をして貰うということに相談が極り、それで家のお母さんが民子に幾度意見をしても泣いてばかり承知しないから、とどのつまり、お前がそう剛情はるのも政夫の処へきたい考えからだろうけれど、それはこの母が不承知でならないよ、お前はそれでも今度の・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・あなたを悦ばせようと申した事は、母や姉は随分不承知なようですが、肝心な兄は、「お前はおとよさんと一緒になると決心しろ」と言うてくれたのです。兄は元からおとよさんがたいへん気に入りなのです。もう私の体はたいした故障もなくおとよさんのものです。・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・と、お袋は相槌を打って、「そのことはこの子からも聴きましたが、先生が何でもお世話してくださることで、またこの子の名をあげることであるなら、私どもには不承知なわけはございません」「お父さんの考えはどうでしょう?」「私どものは、なアに、・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・「不承知と申したら何となさる。」「ナニ。いや、不承知と申さるる筈はござるまい。と存じてこそ是の如く物を申したれ。真実、たって御不承知か。」「臙脂屋を捻り潰しなさらねばなりますまいがノ。貴殿の御存じ寄り通りになるものとのみ、それが・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・テツさんは貧しい育ちの娘であるから、少々内福な汐田の家では二人の結婚は不承知であって、それゆえ汐田は彼の父親と、いくたびとなく烈しい口論をした。その最初の喧嘩の際、汐田は卒倒せん許りに興奮して、しまいに、滴々と鼻血を流したのであるが、そのよ・・・ 太宰治 「列車」
・・・第一おれが不承知だ。こんな美しい物を。これはおれの物だ。誰にも指もささせぬ。おれが大事にしている。側に寄るな。寄るとあぶないぞ。」手には小刀が光っている。 爺いさんはまた二三歩退いた。そして手早く宝石を靴の中に入れて、靴を穿いた。それか・・・ 著:ブウテフレデリック 訳:森鴎外 「橋の下」
・・・人を殺すといえることを以て意と為したる小説あらんに、其の本尊たる男女のもの共に浮気の性質にて、末の松山浪越さじとの誓文も悉皆鼻の端の嘘言一時の戯ならんとせんに、末に至って外に仔細もなけれども、只親仁の不承知より手に手を執って淵川に身を沈むる・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・ 母は、私の不快そうな顔を認め「何も、お前が御不承知なら、来て貰うには及ばないのだよ」と云われる。自分は、折角の気分を壊すことをおそれ「疲れて居るのよ」と、打ち消した。「――それ丈ならいいがね。――」 自分は、注・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・しかしお父うさまに頼まれた上で考えてみれば、ほかに弟のよめに相応した娘も思い当らず、またお豊さんが不承知を言うにきまっているとも思われぬので、ご新造はとうとう使者の役目を引き受けた。 川添の家では雛祭の支度をしていた。奥の間へいろい・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫