・・・俳句を作る場合のおもなる仕事は不用なものをきり捨て切り詰めることだからである。 こういうふうに考えて来ると、俳句というものの修業が、決して花がるたやマージャンのごとき遊戯ではなくてより重大な精神的意義をもつものであるということがおぼろげ・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・自分に必要なものを選択して摂取し、不用なもの有害なものを拒否し排出するのが、人間のみならずあらゆる生物の本性だということは二千年前のストア哲学者が既に宣言していることである。生物が無生物とちがうのもこの点においてである。 これも近頃聞い・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・科学という霊妙な有機体は自分に不用なものを自然に清算し排泄して、ただ有用なるもののみを摂取し消化する能力をもっているからである。しかしもしも万一これら質的研究の十中の一から生まれうべき健全なるものの萌芽が以上に仮想したような学風のあらしに吹・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・そしてそれは六神丸の原料を控除した不用な部分なんだ! 私は、そこで自暴自棄な力が湧いて来た。私を連れて来た男をやっつける義務を感じて来た。それが義務であるより以上に必要止むべからざることになって来た。私は上着のポケットの中で、ソーッとシ・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・島田髷はまったく根が抜け、藤紫のなまこの半掛けは脱れて、枕は不用もののように突き出されていた。 善吉はややしばらく瞬きもせず吉里を見つめた。 長鳴するがごとき上野の汽車の汽笛は鳴り始めた。「お、汽車だ。もう汽車が出るんだな」と、・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・この趣を見れば、学校はあたかも不用の子供を投棄する場所の如し。あるいは口調をよくして「学校はいらぬ子供のすてどころ」といわばなお面白からん。斯る有様にては、仮令いその子を天下第一流の人物、第一流の学者たらしめんと欲するの至情あるも、人にいわ・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・その異なる所は道徳を不用なりというには非ず。小学校に『論語』『大学』の適当せざるをいうなり。今の日本の有様にて、今の小学校はただ、下民の子供が字を学び数を知るまでの場所にて、成学の上、ひと通りの筆算帳面のつけようにてもできれば満足すべきもの・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・されば到底この繁多なる事物を教えんとするもでき難きことなれば、果して世に学校なるものは不用なるやというに決して然らず。 もとより直接に事物を教えんとするもでき難きことなれども、その事にあたり物に接して狼狽せず、よく事物の理を究めてこれに・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・「拙者に少しく不用の金子がある。それに遠国に参る所じゃ。預かっておいてもらえまいか。もっとも拙者も数々敵を持つ身じゃ。万一途中相果てたなれば、金子はそのままそちに遣わす。どうじゃ」「へい。それはきっとお預かりいたしまするでございます・・・ 宮沢賢治 「とっこべとら子」
・・・ 長い歴史の間、過去の日本人が、上から抑えつけられてばかりいた結果、習慣となった卑屈な愛嬌笑いは、男にも女にも、不用です。 私たちは、そういう日本人であることを、自分に拒絶しなければならないと思います。 ところで、躾の根本を・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
出典:青空文庫