・・・若し又多少でも僕等の間に不評判になっていたとすれば、それはやはり同室だった菊池寛の言ったように余りに誰にもこれと言うほどの悪感を与えていないことだった。………「だが君の厄介になるのは気の毒だな。僕は実は宿のこともBさんに任かせっきりにな・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・道徳的に自殺の不評判であるのは必ずしも偶然ではないかも知れない。 又 自殺に対するモンテェエヌの弁護は幾多の真理を含んでいる。自殺しないものはしないのではない。自殺することの出来ないのである。 又 死・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・尤も僕の鑑賞眼は頗る滝田君には不評判だった。「どうも芥川さんの美術論は文学論ほど信用出来ないからなあ。」――滝田君はいつもこう言って僕のあき盲を嗤っていた。 滝田君が日本の文芸に貢献する所の多かったことは僕の贅するのを待たないであろう。・・・ 芥川竜之介 「滝田哲太郎氏」
・・・それから、急に不評判になって、あの婆さんと娘とがいる間は、井筒屋へは行ってやらないと言う人々が多くなったのだそうだ。道理であまり景気のいい料理店ではなかった。 僕が英語が出来るというので、僕の家の人を介して、井筒屋の主人がその子供に英語・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・フロオベエルはおのれの処女作、聖アントワンヌの誘惑に対する不評判の屈辱をそそごうとして、一生を棒にふった。所謂刳磔の苦労をして、一作、一作を書き終えるごとに、世評はともあれ、彼の屈辱の傷はいよいよ激烈にうずき、痛み、彼の心の満たされぬ空洞が・・・ 太宰治 「逆行」
・・・けれども、あの山椒魚の失敗にしても、またこのたびの逸事にしても、先生にとっては、なかなか悲痛なものがあったに違いない、と私には思われてならぬので、前回の不評判にも懲りずに、今回ふたたび先生の言行を記録せむとする次第なのである。先生の失敗は、・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・日本の表情の一つとして世界に不評判なあいまいな笑いの習慣も、映画の上では特に注意される問題であると思う。「裸の町」は、私たち素人の目では、前半、後半とテーマがわかれていた感じである。文芸映画としてのよりどころは、後半にあったと思うが、後・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
出典:青空文庫