・・・「は、いえ、手前不調法で。」「まあまあ一杯。――弱ったな、どうも、鶫を鍋でと言って、……その何ですよ。」「旦那様、帳場でも、あの、そう申しておりますの。鶫は焼いてめしあがるのが一番おいしいんでございますって。」「お膳にもつけ・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・透かさず女は恐る恐る、「何卒わたくし不調法を御ゆるし下されますよう、如何ようにも御詫の次第は致しまする。」と云うと、案外にも言葉やさしく、「許してくれる。」と訳も無く云放った。二人はホッとしたが、途端にまた「おのれの疎忽・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ただいま正木校長の御話のように文学と美術は大変関係の深いものでありますから、その一方を代表なさる諸君が文学の方面にも一種の興味をもたれて、われわれのような不調法ものの講話を御参考に供して下さるのは、この両者の接触上から見て、諸君の前に卑見を・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・学芸の上達せざるは、学者の不外聞なり、工業の拙なるは、職人の不調法なり。智力発達せずして品行の賤しきは、士君子の罪というべし。昔日鎖国の世なれば、これらの諸件に欠点あるも、ただ一国内に止まり、天に対し同国人に対しての罪なりしもの、今日にあり・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ むぐらは土の中で冷汗をたらして頭をかきながら、 「さあまことに恐れ入りますが私は明るい所の仕事はいっこう無調法でございます」と言いました。 ホモイはおこってしまって、 「そうかい。そんならいいよ。頼まないから。あとで見てお・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・これはとんだ無調法を致しました。ただ今、すぐ持って参ります。」と云いながら、その給仕は二尺ばかりあるホークを持って参りました。「ナイフ!」と又若ばけものはテーブルを叩いてどなりました。「へい。これはとんだ無調法を致しました。ただ今、・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
出典:青空文庫