・・・ その噂の元はと云えば、誰も知る者はなく、婆さんの耳元だけ、聞えたと感じた事もなかなか少なくないのである。中傷するほどの腕はないけれ共、自分の交際ばかりを次第次第にせばめて居るのである。「先生とこの奥様もこの上なしのぐうたらです・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・はサロンで二等になったにもかかわらず、若い娘の作品にしては立派すぎる、非常によいことが却ってさまざまな中傷を産んで、当然として周囲からも期待されていた金牌は、第三位の永年サロンに出品している芸術的には下らない画家に与えられたのであった。マリ・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・原子兵器を全人類にとっての癌たらしめまいと奮闘する仕事を中傷するものがあるとすれば、それは、自分も死ぬことを知らないで、ほくそえみながら厖大な棺の注文を皮算用している棺桶屋ばかりである。〔一九五〇年十月〕・・・ 宮本百合子 「私の信条」
・・・絶えず隙間を狙う兇器の群れや、嫉視中傷の起す焔は何を謀むか知れたものでもない。もし戦争が敗けたとすれば、その日のうちに銃殺されることも必定である。もし勝ったとしても、用がすめば、そんな危険な人物を人は生かして置くものだろうか。いや、危い。と・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫