・・・恋愛を夫婦愛の中核として見て、その発展と成熟との間におこる種々の問題こそ研究さるべきであるという常識は、日本の、現在でもなお結婚と恋愛とを切りはなして考える慣習と対蹠をなしている。 昔の日本人は、封建の柵にはばまれて、心に思う人と、親の・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・日本で最も優秀な実験室の中核が割れているのだ。 栖方が待たせてあると云った自動車は、渋谷の広場にはいなかった。そこで二人は都電で六本木まで行くことにしたが、栖方は、自動車の番号を梶に告げ、街中で見かけたときはその番号を呼び停めていつでも・・・ 横光利一 「微笑」
・・・この思想は正義と仁愛との相即を中核とする点において特徴のあるものであるが、しかし日本では古くから成立していたものであって、この時代に限った現象ではない。この時代として特に注目せらるべき点は、武家の権力政治が数世紀にわたって行なわれた後に、な・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・恋愛は人生の中核をなすものであるが、しかしそれは正しく生きることと抵触しはしないか。また恋愛のある所に必ず幸福な心の融合があるという事は可能であろうか。人と人との間には掛ける橋がないという言葉は真実ではなかろうか。『三四郎』『それから』・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
・・・ 自分は美の王国への情熱が岸田君の生活の中核となり、その製作に人類的事業としての覚悟がこめられていることを、愉快に思う。「人類」を口にすることは近ごろの流行である。しかし真実に「人類」を感じているものが、我々の前にどれほどあるだろう。人・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫