・・・大阪でいうならば、難波の前に千日前、堂島の前に京町堀、天満の前に天神橋といったあんばいに、随所に直営店をつくり、子飼いの店員をその主任にした。 支店と直営店とは、だいいち店の構えからして違って、直営店に客が集まるのは当然のこと、支店の自・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・私には成算ございましたので、二、三日、様子を見て、それから貴方へ御寄稿のお礼かたがた、このたびの事件のてんまつ大略申し述べようと思って居りましたところ、かれら意外にも、けさ、編輯主任たる私には一言の挨拶もなく、書留郵便にて、玉稿御返送敢行い・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・生徒が四十人ばかり、行儀よくならんでいるが、これは皆、私の同級生です。主任の教授が、前列の中央に腰かけていますね。これは英語の先生で、私は時々、この先生にほめられた。笑っちゃいけない。本当ですよ。私だって、このころは、大いに勉強したものだ。・・・ 太宰治 「小さいアルバム」
・・・ やがて出て来た主任の先生と挨拶して、それから会場へ出かけました。会場には生徒の他に一般市民も集っていました。隅に、女の人も、五、六人かたまって腰かけていたようでした。私が、はいって行くと、拍手が起りました。私は、少し笑いました。「・・・ 太宰治 「みみずく通信」
・・・その設計の詳細をいちばんよく知っているはずの設計者自身が主任になって倒壊の原因と経過とを徹底的に調べ上げて、そうしてその失敗を踏み台にして徹底的に安全なものを造り上げるのが、むしろほんとうに責めを負うゆえんではないかという気がするのである。・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・ それはとにかく、自分らの教室にとっては誠に思いがけない遠来の珍客なので、自分は急いで教室主任のN教授やT老教授にもその来訪を知らせ引き合わせをしたのであったが、両先生ともにいずれも全然予期していなかったこの碩学の来訪に驚きもしまた喜ば・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・ブルジョア・地主の工場のように、社長、重役とか主任とか監督とか、威張って搾るばかりが仕事の者は、ソヴェト同盟の工場のどこの隅をさがしてもいない。もう一つのコムソモール・ヤチェイカというのは、共産青年同盟細胞という意味である。 私は二つめ・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・『女工と農婦』という女のための雑誌がレーニングラードで出ていて、そこの編輯所を訪問したら、主任の女のひとが自分のテーブルの抽斗から、一束の黄色や白のバラバラの型の紙束に鉛筆で何か書いてあるものを見せてくれた。そして、「これが今、この雑誌で呼・・・ 宮本百合子 「打あけ話」
・・・主人公ともいうべき人物はその托児所の主任※母ではない。階級的な立場にたつ婦人作家としてあらわれている。重吉とひろ子とは、様々の波瀾を互にしのいですごした十二年ののちに、はじめて一つ家に、結婚の歴史はもう旧いけれども、互が互を感じ合う敏感さで・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・ ガラガラと戸をあけて金モールをつけた背の高い司法主任が入って来た。片手でテーブルの上に出してある巡邏表のケイ紙に印を押しながら、看守に小声で何か云っている。顔の寸法も靴の寸法も長い看守は首を下げたまま、それに答えている。「ハ。・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫