・・・しかし俳諧連句では、いろいろの個性が交響楽を織り出すところに妙味がある。七部集の連句がおもしろいのは、それぞれ特色を異にした名手が参加している上に、一代の名匠が指揮棒をふるっているためである。蕪村七部集が艶麗豪華なようで全体としてなんとなく・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・「新世界交響楽だわ。」姉がひとりごとのようにこっちを見ながらそっと云いました。全くもう車の中ではあの黒服の丈高い青年も誰もみんなやさしい夢を見ているのでした。(こんなしずかないいとこで僕はどうしてもっと愉快になれないだろう。どうしてこん・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・おまえたちには、それではドレミファも第六交響楽も同じなんだな。」「それはちがいます。」「どうちがうんだ。」「むずかしいのはこれをたくさん続けたのがあるんです。」「つまりこうだろう。」セロ弾きはまたセロをとって、かっこうかっこ・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・虚感がどんなに深く大きくアメリカの人々の感情にもしみ入っているかということは、ニューヨークですばらしい成功をおさめているという日本人画家国吉氏の作品の写真をみた時も感じたし、先ごろ注目された「アメリカ交響楽」をきいても感じられたことでした。・・・ 宮本百合子 「アメリカ文化の問題」
・・・ 広場に向って開いているラジオ拡声機からは、絶え間なく、活溌な合唱、又は交響楽がはじきだされる。 すばらしいメーデーの飾をみようとして、広場に集まる群衆は一時過ぎてもたえなかった。 ソヴェト同盟で、社会主義的社会建設のために全プ・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
この春新響の演奏したチャイコフスキーの「悲愴交響楽」は、今も心のなかに或る感銘をのこしている。一度ならず聴いているこの交響楽から、あの晩、特別新鮮に深い感動を与えられたのはおそらく私一人ではなかったろうと思う。 十九世・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・新響の放送であろうと思われるような交響楽が鳴り出して、諧調ある美しい音に神経が突然快くゆるめられたと思う間もなく、「ああ打ちました! 打ちました!」などと叫ぶアナウンサアの声がわり込み、音楽と野球実景放送とがしばらくあやめも分らずもつれ合っ・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・パセティークな、優しい、歴史性を確固としたがえた交響楽です。私は、本当に自分が芸術家として又一つ力強く人生に向いて背中を押し出されたような、新しい現実の面を我ものとしつつあることを感じて居るのです。このように私の経験。悲劇の発生を不可能なら・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 空気の裡には交響楽のクレッセンドウのように都会の騒音が高まる。遽しく鳴らす電車のベルの音が、次第に濃くなる夕闇に閉じ罩められたように響き出すと、私の歩調は自ら速めになった。もう私の囲りでは、誰一人呑気に飾窓などを眺めている者はない。何・・・ 宮本百合子 「小景」
ワインガルトナー夫人の指揮 その晩は、ベートーヴェンばかりの曲目で、ワインガルトナー博士は第七と田園交響楽などを指揮し、カルメン夫人はレオノーレの序曲を指揮することになっていた。 私は音楽について・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
出典:青空文庫