・・・その時茶店の軒へ駆け込んで雨を避ける二人連の遊人体の男がある。それが小降になるのを待ちながら、軒に立ってこんな話をした。 一人が云った。「お前に話そうと思って忘れていたが、ゆうべの事だった。丁度今のように神田で雨に降り出されて、酒問屋の・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・ 埴輪人形の稚拙さについて第二に注目すべき点は、この造形が必ずしも人体を写実的に現わそうなどと目ざしていないという点である。それは埴輪の円筒形に「意味ある形」をくっつけただけであって、埴輪本来の円筒形を人体に改造しようとしたのではない。・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
・・・面は元来人体から肢体や頭を抜き去ってただ顔面だけを残したものである。しかるにその面は再び肢体を獲得する。人を表現するためにはただ顔面だけに切り詰めることができるが、その切り詰められた顔面は自由に肢体を回復する力を持っている。そうしてみると、・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
出典:青空文庫