・・・――ところで、生捉って籠に入れると、一時と経たないうちに、すぐに薩摩芋を突ついたり、柿を吸ったりする、目白鳥のように早く人馴れをするのではない。雀の児は容易く餌につかぬと、祖母にも聞いて知っていたから、このまだ草にふらついて、飛べもしない、・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
一 三郎はどこからか、一ぴきのかわいらしい小犬をもらってきました。そして、その小犬をかわいがっていました。彼はそれにボンという名をつけて、ボン、ボンと呼びました。 ボンは人馴れたやさしい犬で、主人の三郎にはもとよりよくなつき・・・ 小川未明 「少年の日の悲哀」
・・・一緒につかまった男の同志が人馴れた口調で看守に国鉄従業員の勤務状態などを、話しかけている。それにかこつけて、巧に必要な連絡を女の同志に向ってつけているらしい。女の同志はじっとそれに耳を傾け「ふ、あんなこと云ってる」などと頼もしそうに笑った。・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫