・・・許可するが、そうでないものをば一斉に書面を却下することとし、また相当の条件を具えた書面が幾通もあるときは、第一着の願書を採用するという都合らしく、よっては今夜早速に、それらの相談を極めておき、いよいよ今度の閣令が官報紙上に見えた日に、それを・・・ 川上眉山 「書記官」
今度の戦で想い出した、多分太沽沖にあるわが軍艦内にも同じような事があるだろうと思うからお話しすると、横須賀なるある海軍中佐の語るには、 わが艦隊が明治二十七年の天長節を祝したのは、あたかも陸兵の華園口上陸を保護するため・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・そして今度は幸福にいく場合が多い。恋を失っても絶望することはない。必ず強く生きねばならぬ。 しかし今日の青年学生にそんな深い失恋の苦しみなどするものがあるものかという声が、どこからか聞こえてくるのはどうしたものだろう。 恋する力の浅・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・彼は丘を登りきると、今度は向うへ下った。丘の下のあの窓には、灯がともっていた。人かげが、硝子戸の中で、ちらちら動いていた。 彼は歩きながら云ってみた。「ガーリヤ。」「ガーリヤ。」「ガーリヤ。」「あんたは、なんて生々してい・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・機嫌が甚く悪いように見えたのは、どういうものだか、帰りの道で、吾家が見えるようになってフト気中りがして、何だか今度の御前製作は見事に失敗するように思われ出して、それで一倍鬱屈したので。」「気アタリという奴は厭なものだネ。わたしも若い時分・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・中山さんはとう/\今度市ヶ谷に廻ってしまったんです。」 といって、紹介した。 中山のお母さんは少しモジ/\していた。 私は自分の娘が監獄にはいったからといって、救援会にノコ/\やってくるのが何だかずるいような気がしてならない・・・ 小林多喜二 「疵」
・・・手長、獅子、牡丹なぞの講釈を聞かせて呉れたあの理学士の声はまだわたしの耳にある。今度わたしはその人の愛したものを自分でもすこしばかり植えて見て、どの草でも花咲くさかりの時を持たないものはないことを知った。おそらくどんな芸術家でも花の純粋を訳・・・ 島崎藤村 「秋草」
・・・ それからまたどんどんいきますと、今度はおおぜいの大男が、これも食べものに飢えて、たった一とかたまりのパンを奪い合って、恐ろしい大げんかをしていました。ウイリイは気をきかせて、すぐに百樽のパンをやりました。大男たちは大そうよろこんで、ぺ・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・ で鳩は今度は牧場を飛び越して、ある百姓がしきりと井戸を掘っている山の中の森に来ました。その百姓は深い所にはいって、頭の上に六尺も土のある様子はまるで墓のあなの底にでもいるようでした。 あなの中にいて、大空も海も牧場も見ないこんな人・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・ 今度こそ、眼と耳と両方を使って、彼女の良人は眼と同様に耳も働かせた厳重な検査をし、二度目の、物を云える妻と、結婚しました。〔一九二三年二月〕 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
出典:青空文庫