・・・「みな、一時に集まって、任務についているんですぞ!」「一体、どういう状勢なんですか?」俺は、ワクワクしていた。「そんなこと、訊ねなくッてよろしい! 命令通りすればいいんだ!」 俺のあとから、七十人位やって来た。みな、銃と剣と弾薬・・・ 黒島伝治 「防備隊」
・・・主人が跣足になって働いているというのだから細君が奥様然と済してはおられぬはずで、こういう家の主人というものは、俗にいう罰も利生もある人であるによって、人の妻たるだけの任務は厳格に果すように馴らされているのらしい。 下女は下女で碓のような・・・ 幸田露伴 「太郎坊」
・・・あの時は砲車の援護が任務だった。砲車が泥濘の中に陥って少しも動かぬのを押して押して押し通した。第三聯隊の砲車が先に出て陣地を占領してしまわなければ明日の戦いはできなかったのだ。そして終夜働いて、翌日はあの戦争。敵の砲弾、味方の砲弾がぐんぐん・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・かくすべしという命令は科学者としての任務のほかであることはもちろんである。これは忘れてならないことで、しかも往々にして忘れられがちなことである。 そういうことから考えても、科学者が科学者として文学に貢献しうるために選ぶべき一つの最も適当・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 種の保存の任務を果たす前は雄が中央にのさばって雌を片わきに押しよせている。それが、役目がすむと直ちに枯死してしまった、あとは、次の世代を胎んだ雌のひとり天下になると見える。蜜蜂やかまきりの雄の運命ともよく似たところがあるのである。蜜蜂・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・ 十四 マルキシズムの立場から科学を論じ、科学者の任務に対していろいろな注文をつける人がある。その人たちとしては一応もっともな議論ではあろうが、ただの科学者から見るとごくごく狭い自分勝手な視角から見た管見的科学論・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・ 以上のごとき単純な側面観によって科学と芸術との任務や領域を遺憾なく説明しようというのではない。こういう考えから出発して、文芸の中に潜在する科学的要素を捜してみたいと思うのである。 いかなる文芸といえどもその取扱う資料が常識を具えた・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・「――いつか、新聞に“現代青年の任務”というのをお書きになったんでしょ。妾、とても、感激しましたわ」 東京弁をまじえて、笑いもせずにいっている。そのあいての顔から視線をはずしているのに、口から鼻のまわりへかけてゆれうごくものが、三吉・・・ 徳永直 「白い道」
・・・されば競技者の任務を言えば攻者の地に立つ時はなるべく廻了の数を多からしめんとし、防者の地に立つ時はなるべく敵の廻了の数を少からしめんとするにあり。廻了というは正方形を一周することなれどもその間には第一基第二基第三基等の関門あり各関門には番人・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・ その次の日又重湯を運んでやり、歩けるようになる迄、粥をやるのがいしの任務であった。仙二は、苦笑しながら半分冗談、半分本気で云った。「あげえ業の深けえ婆、世話でも仕ずに死なしたら、忘れっこねえ、きっと化けて出よるぜ」 沢や婆は、・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
出典:青空文庫