・・・俊助に高慢な顔をするなって、おれがそう言ったッて伝言ろ!』これがかれのせめてもの愉快であった。『彼人がどうしてまた東京に来たろう、』自分は自分の直覚を疑ってはまた確かめてその後、ある友人にもかれのことを話して見たが、友は小首を傾けたばかりで・・・ 国木田独歩 「まぼろし」
・・・この談は汝さえ知らないのだもの誰が知っていよう、ただ太郎坊ばかりが、太郎坊の伝言をした時分のおれをよく知っているものだった。ところでこの太郎坊も今宵を限りにこの世に無いものになってしまった。その娘はもう二十年も昔から、存命えていることやら死・・・ 幸田露伴 「太郎坊」
・・・島田から達ちゃんにでも広島まで出てもらって、一緒に面会して品物も渡してもらったら、伝言も出来て、いいと思うけれども、それを頼んではあんまり勝手でしょうか。明日は寿江子がお目にかかれるだろうから、そちらの御意見を伺って、てっちゃんの都合がつく・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・使者 ヘンリー四世の使者として王の御伝言を申し□(ます。 「わしは今度の出来事によって両親から授かったより以上に種々の智恵をましたのを喜ぶ。カノサの十二月は、雪のつめたさに肌をさされながら働かねばならぬ貧しい民の苦労を始めて教え・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・ 或日の午後、オートバイでK男が来て、今晩、是非二人で来いと、伝言を齎した。 勿論、前の続きであるとは推察される。母はきっと、二人を並べて、もう一度、みっしり自分の考を明にされたいのだろう。物事を、或時、ぼんやりさせて置けない彼女の・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・ 藍子は、女の様子や伝言をつたえた。藍子は、「結局私の行った心持なんか通じなかったらしい――女は女を当にする気のないもんですね」と苦笑した。「それに、あの万年筆のありかが判りましたよ。あの人があずかっているそうじゃありません・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・手紙、伝言等の言語的表現がその媒介をしてくれる。しかしその場合にはただ相手の顔を知らないだけであって、相手に顔がないと思っているのではない。多くの場合には言語に表現せられた相手の態度から、あるいは文字における表情から、無意識的に相手の顔が想・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
出典:青空文庫