・・・昔日鎖国の世なれば、これらの諸件に欠点あるも、ただ一国内に止まり、天に対し同国人に対しての罪なりしもの、今日にありては、天に対し同国人に対し、かねてまた外国人に対して体面を失し、その結局は我が本国の品価を低くして、全国の兄弟ともにその禍を蒙・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・世人の改新を促して自から謹ましめ以て国の体面を清潔にするは、何は扨置き目下の緊急事なりとて、いよ/\宿論発表の時機到来を認め、昨年八月中より遽に筆を執り、僅々三十日足らずの間に稿を脱したる次第なりと言う。左れば女大学評論及び新女大学の二篇は・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・人間の大事、社会の体面のためと思えばこそ、敢えてこれを明言する者なけれども、その実は万物の霊たるを忘れて単に獣慾の奴隷たる者さえなきにあらず。 いやしくも潔清無垢の位に居り、この腐敗したる醜世界を臨み見て、自ら自身を区別するの心を生ぜざ・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・我封建の時代に諸藩の相互に競争して士気を養うたるもこの主義に由り、封建すでに廃して一統の大日本帝国と為り、さらに眼界を広くして文明世界に独立の体面を張らんとするもこの主義に由らざるべからず。 故に人間社会の事物今日の風にてあらん限りは、・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・これらの人々の顔ぶれの世俗的に賑やかな体面上からも、日本の文学が瀕している危機にたいして黙っていられないはずであろうと思えた。こちらからの話があれば、文芸家協会の議題にのぼることなのだろうか。 光線のたりないその事務室で、正直な某氏は、・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・父である牧師は、自分の教会と牧師である自身の体面が全教区の前に傷つけられたということばかりを心痛している。娘に対して最も寛容でないのは、神の召使いである父親であった。 ある日、不幸な女主人公は、小さい赤ン坊をつれて動物園へ行っていた。そ・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・昔、金持ちや身分のいい若い息子がお小間使いから始まりいろいろな女に、遊びとしての交渉をもって行き、しかし身をかためるという意味の結婚では、その家と釣合った自分の社会的な体面の玄関口と釣合った娘さんと結婚することが、不思議でなかったし、そのこ・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
・・・ 子さんが宮崎龍介氏との結婚を法律的に認めさせ、香織というかぐわしい名を与えたその赤子を自分たち夫婦の子として確保するために、二十数年前の日本で、因習と封建的な体面をすてて、どんなに雄々しくたたかったかということを知っているひとは、きょ・・・ 宮本百合子 「その願いを現実に」
・・・こう見て来ると、今のところこれらアカデミックな人々の体面感を傷つけずに参与を可能ならしめるような表現では、会則や綱領がきめられないというところが、実際の事情ではなかろうか。会則、綱領がないと公言されていることは、一人の男が、私に主義というも・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・父権につれて尊重され始めた家系というものがその利害や体面のため、同族の女性をどれほど犠牲にして来たかということは、日本の武家時代のあわれな物語の到る所に現れている。ヨーロッパでも家門の名誉ということを、その財産の問題とからめて極端に重大に視・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
出典:青空文庫