・・・友人と一緒になる場合は、極く稀れに特別の例外でしかない。多くの人は、仲間と一緒の方を楽しむらしい。ただ僕だけが変人であり、一人の自由と気まま勝手を楽しむのである。だがそれだけまた友が恋しく、稀れに懐かしい友人と逢った時など、恋人のように嬉し・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・若し万一も例外の事実ありとすれば、自から之に伴う例外の原因なきを得ず。人に教うるに常情以外の難きを以てす、教育家の事に非ざるなり。元来尊敬は外にして親愛は内なり。内に親愛の至情なきも外面に尊敬の礼を表することは易きが故に、舅姑に対して朝夕の・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・しかしこれは極大体の特色で、殊にこの頃のように農芸の事が進歩するといろいろの例外が出来てくるのはいうまでもない。○くだものの大小 くだものは培養の如何によって大きくもなり小さくもなるが、違う種類の菓物で大小を比較して見ると、准くだもので・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・ここに例外とすべき蕪村の句二首あり。御手討の夫婦なりしを更衣打ちはたす梵論つれだちて夏野かな 前者は過去のある人事を叙し、後者は未来のある人事を叙す。一句の主眼が一は過去の人事にあり、一は未来の人事にあるは二句同一なり、・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・そういう功利的通念は、今や、オイ、御新邸を背負って華族の娘さんが嫁に来るぜ、という例外の一例とはなるかもしれないが、この結合を、社会的な評価で新しい内容をもつものであるといい得ないことは自明である。 われわれ個人の恋愛や結婚の幸福を、か・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・科学主義工業の提唱者は、おおうところなく明言している。例外なしに、農村の子女に適当な機械と設備とをあてがえば熟練の大衆化によって、数日にして「大の男の熟練工と同じ程度の熟練さを習得するのである」と。男の補助ではなく、男の代るものとして、婦人・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・Goethe が小さいながら一国の国務大臣をしていたり、ずっと下って Disraeli が内閣に立って、帝国主義の政治をしたようなのは例外で、多くは過激な言論をしたり、不検束な挙動をしたりする。George Sand と Eugユウジェエヌ・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・武士は例外だが。ただの百姓や商人など鋤鍬や帳面のほかはあまり手に取ッたこともないものが「サア軍だ」と駆り集められては親兄弟には涙の水杯で暇乞い。「しかたがない。これ、忰。死人の首でも取ッてごまかして功名しろ」と腰に弓を張る親父が水鼻を垂らし・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・ もとより右の傾向には、双方ともに例外がある。しかし大体の観察としては誤らないと思う。洋画家が日本画家のような大きな画題を捕えないのは、一つには目前に在るものの美しさに徹するということが、十分彼らの心情を充たすに足る大事業であるためであ・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・もし二、三の幸福な例外がなかったならば、我々はこの日本画革新の急先鋒たる美術院に失望し尽くしたかもしれない。 例外の一は小林古径氏の『麦』である。氏は示唆的な日本画の手法をもって、麦の収穫に忙がしい農村の光景を写した。その結果が何である・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫