仰臥漫録 何度読んでもおもしろく、読めば読むほどおもしろさのしみ出して来るものは夏目先生の「修善寺日記」と子規の「仰臥漫録」とである。いかなる戯曲や小説にも到底見いだされないおもしろみがある。なぜこれほどお・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・余が修善寺で生死の間に迷うほどの心細い病み方をしていた時、池辺君は例の通りの長大な躯幹を東京から運んで来て、余の枕辺に坐った。そうして苦い顔をしながら、医者に騙されて来て見たと云った。医者に騙されたという彼は、固より余を騙すつもりでこういう・・・ 夏目漱石 「三山居士」
・・・ 伊豆湯ヶ島 一九二五年十二月二十七日より 修善寺駅 茶屋の女出たら目の名、荷物のうばい合い、 犬、片目つぶれて創面になって居た、思わず自分、あっと云う。 Y、「この犬はいけない!」体が白・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ 修善寺より乗合自働車。女の客引が客を奪い合う様子、昔の宿場よろしくの光景なり。然し、どれも婆。 すっかり夜になり、自働車を降りて、更に落合楼に下る急な坂路にかかると、思いがけず正面に輪廓丸い二連の山、龍子の墨絵のようにマッシヴに迫・・・ 宮本百合子 「湯ヶ島の数日」
出典:青空文庫