・・・小体な暮しで共稼ぎ、使歩行やら草取やらに雇われて参るのが、稼の帰と見えまして、手甲脚絆で、貴方、鎌を提げましたなり、ちょこちょこと寄りまして、(お婆さん今日は不思議なことがありました。沢井様の草刈に頼まれて朝疾くからあちらへ上って働いて・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・おきんの亭主はかつて北浜で羽振りが良くおきんを落籍して死んだ女房の後釜に据えた途端に没落したが、おきんは現在のヤトナ周旋屋、亭主は恥をしのんで北浜の取引所へ書記に雇われて、いわば夫婦共稼ぎで、亭主の没落はおきんのせいだなどと人に後指ささせぬ・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・』『アハハハハハ麦飯を食わして共稼ぎをすればよかろう、何もごちそうをして天神様のお馬じゃアあるまいし大事に飼って置くこともない。』『吉さんはきっとおかみさんを大事にするよ』と、女は女だけの鑑定をしてお常正直なるところを言えばお絹も同・・・ 国木田独歩 「置土産」
・・・ しかし現状では夫婦共稼ぎもやむを得ない。が、この際夫としてはなるべく妻を共稼ぎさせないようにするのが夫婦愛であり男の意気地である。妻の方では共稼ぎもあえて辞しないという心組みでいてほしいものだ。 私の知ってるある文筆夫人に、女学校・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・卒業後の結婚の物質的基礎を考えるとき、夫婦の「共稼ぎ」はますます普通のこととなり行く形勢にある。のみならず職業婦人には溌剌とした知性と、感覚的新鮮さとを持った女性がふえつつある。古き型の常套的レディは次第に取り残され、新しき機能的なレディの・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・相手の人格と才能とをたのみ自分も共稼ぎする覚悟でなくては選択の範囲がせまくなってしまう。恋人には金がないのが普通と思わねばならぬ。社会的地位のある男子にならそれほど好きでなくとも嫁ぐというような傾向は娘の恥である。しかしいくら恋愛結婚でも二・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・男子が独力で妻子を養うことができないための共稼ぎの必要によるものである。適当の収入さえあれば、夫への心をこめた奉仕と、子どもの懇ろなる養育と、家庭内の労働と団欒とを欲する婦人が生計の不足のためにやむなく子供を託児所にあずけて、夫とともに家庭・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・だが、それを実践したい心は溢れているとして、全体の人数の何割の若い職業婦人たちが、それぞれの勤め先で結婚と分娩とを公然の条件として認められているであろうか。共稼ぎの率は殖えている。でも、女にとって職業か家庭かという苦しい疑問を常に抱かせて来・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・体の健やかな共稼ぎの出来る能力のある女性や積極的に日々を展開してゆける機転と賢さと生活力を湛えた女性をこそ必要とするのだと、はっきり男として自身の感情の方向をつかんでいる若い人たちは何人あるだろうか。 時代が私たちに課していることはいろ・・・ 宮本百合子 「家庭と学生」
・・・住居のこと、収入と物価、夫婦二人のほかに家庭的な扶助の責任の問題。共稼ぎの必要、その必要には余り不備な今日の社会施設。もし健康に自信のない妻であるならば、共稼ぎと主婦の労苦を二重に負って病気したとき、その不安は誰が分担してくれるであろう。・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
出典:青空文庫