・・・いや、母が兄をつれて再縁したと云う事さえ、彼が知るようになったのは、割合に新しい事だった。ただ父が違っていると云えば、彼にはかなりはっきりと、こんな思い出が残っている。―― それはまだ兄や彼が、小学校にいる時分だった。洋一はある日慎太郎・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・彼は父よりもこの母に、――このどこへか再縁した母に少年らしい情熱を感じていた。彼は確かある年の秋、僕の顔を見るが早いか、吃るように僕に話しかけた。「僕はこの頃僕の妹が縁づいた先を聞いて来たんだよ。今度の日曜にでも行って見ないか?」 ・・・ 芥川竜之介 「彼」
・・・夫婦同居して子なき婦人が偶然に再縁して子を産むことあり。多婬の男子が妾など幾人も召使いながら遂に一子なきの例あり。其等の事実も弁えずして、此女に子なしと断定するは、畢竟無学の臆測と言う可きのみ。子なきが故に離縁と言えば、家に壻養子して配偶の・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・我輩の持論は其再縁を主張する者なれども、日本社会の風潮甚だ冷淡にして、学者間にも再縁論を論ずる者少なきのみか、寡居を以て恰も婦人の美徳と認め、貞婦二夫に見えずなど根拠もなき愚説を喋々して、却て再縁を妨ぐるの風あるこそ遺憾なれ。古人の言う二夫・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・それが自分のパリイに出たあとで再縁して、今ではマドレエヌ・ジネストと名告っている。スウルヂェエにしろ、ジネストにしろ、いずれも誰にも知られない平民的な苗字で目下自分の交際している貴夫人何々の名に比べてみれば、すこぶる殺風景である。しかしこの・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
出典:青空文庫