・・・花の咲き乱れた樹より、冬枯れの梢の枝の美しさを愛し、そこに秘められている若さを鋭く感じる老境の敏感さは、私共にやはり同感されるものである。しかし、自然を教訓的に語るということには、やはり芸術家を戒心せしめる要素がある。 若い日のゲーテは・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・早春そこを通ったので雪解の河原、その河原に茂っている多分河楊だろう細かく春浅い枝をひろげた灌木、山又山とほんのり芽ぐみつつまだ冬枯れの密林が連った光景、そこへそのような屋根を点々と、如何にも山村浅春の趣が深かった。葉をふるい落した樹木の線の・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・ 今冬枯れで落葉に満ちては居りますが、広大な場所が、古い記憶に満たされて居る心持は、床しゅうございます。 一九一九年八月二十五日〔東京市本郷区林町二一 中條精一郎宛 レーク・ジョージより〕 此間此山に登ろうとしてグランパ・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
出典:青空文庫