・・・ 或物質主義者の信条「わたしは神を信じていない。しかし神経を信じている。」 阿呆 阿呆はいつも彼以外の人人を悉く阿呆と考えている。 処世的才能 何と言っても「憎悪する」ことは処世的・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・男がみだりに笑ったり、口を利くものではないということが、父の教えた処世道徳の一つだった。もっとも父は私の弟以下にはあまり烈しい、スパルタ風の教育はしなかった。 父も若い時はその社交界の習慣に従ってずいぶん大酒家であった。しかしいつごろか・・・ 有島武郎 「私の父と母」
・・・夫婦の者が深くあいたよって互いに懐しく思う精神のほとんど無意識の間にも、いつも生き生きとして動いているということは、処世上つねに不安に襲われつつある階級の人に多く見るべきことではあるまいか。 そりゃ境遇が違えば、したがって心持ちも違うの・・・ 伊藤左千夫 「去年」
・・・この国では才能がなくても、運と文壇処世術で大家になれるのだ。才能のないものでも作家になれるのが、この国の文壇だ。だから、私でも作家になることが出来た。私はただ自分の菲才を知っているから、人よりはすくなく寝て、そして人よりは多くの金を作品のた・・・ 織田作之助 「私の文学」
・・・驚くべき処世の修行鍛錬を積んだ者で無くては出ぬ語調だった。女は其の調子に惹かれて、それではまずいので、とは云兼ぬるという自意識に強く圧されていたが、思わず知らず「ハ、ハイ」と答えると同時に、忍び音では有るが激しく泣出して終った。苦悩・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・けれども私は、自殺を処世術みたいな打算的なものとして考えていた矢先であったから、兄のこの言葉を意外に感じた。 白状し給え。え? 誰の真似なの? 水到りて渠成る。 彼は十九歳の冬、「哀蚊」という短篇を書いた。それは、よ・・・ 太宰治 「葉」
・・・哲学の講義のようでもあり、また最も実用的な処世訓のようでもあり、どうかするとまた相対性理論や非ユークリッド幾何学の話のようでもある。そうかと思うと、また今の時節には少しどうかと心配されるような非戦論を滔々と述べ聞かすのであった。 同じ思・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・の講習にも、その他到る処に彼一流の唯物論的処世観といったようなものが織り込まれている。 これらは、西鶴一流とは云うものの、当時の日本人、ことに町人の間に瀰漫していて、しかも意識されてはいなかった潜在思想を、西鶴の冷静な科学者的な眼光で観・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ かように、一方では遁世を勧めると同時に、また一方では俗人の処世の道を講釈しているのが面白い。これは矛盾でもなんでもない。ただ同じ事のちがった半面を云っているのであろう。 世間に立交わって人とつき合うときの心得を説いたものが案外に多・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・しかしこの青年などはさびしおりを処世術に応用しているほうかもしれないのである。 五 昨夜古いギリシアの兵法書を読んでいたら「夜打ちをかける心得」を説いたくだりに、狗吠や鶏鳴を防止するためにこれらの動物のからだのある部・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
出典:青空文庫