・・・しかし、どんなにいそがしくても、仕事はつらいとは思いませんでしたが、その印刷所のおかみさんと、それから千葉県出身だとかいう色のまっくろな三十歳前後のめしたき女と、この二人の意地くね悪い仕打には、何度泣かされたかわかりません。ご自分のしている・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・県出身の若き将校らの悲壮な戦死を描いた平凡な石版画の写真でも中学生のわれわれの柔らかい頭を刺激し興奮させるには充分であった。そしてそれらの勇士を弔う唱歌の女学校生徒の合唱などがいっそう若い頭を感傷的にしたものである。一つは観客席が暗がりであ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・この鯨絵巻の写しや、硯石で昔から知られた行当岬のスケッチや、祖先の出身だという一世一海和尚の墓の絵などが郷里の家に保存してあったはずであるが、いつの前にかもう無くなってしまったか、それともまだ倉の中のどこかに隠れているか不明である。 こ・・・ 寺田寅彦 「初旅」
・・・ アインシュタインが有名になりかけたころ、方々の国々で、彼は自分の国の出身であるといっていい争ったことがあった。そのときアインシュタインが「もし私が bte noire だったらこんなことはあるまい」といって皮肉に笑ったそうである。なる・・・ 寺田寅彦 「夕凪と夕風」
・・・今時の女学校出身の誰々さんのように、夫の留守に新聞雑誌記者の訪問をこれ幸い、有難からぬ御面相の写真まで取出して「わらわの家庭」談などおっぱじめるような事は決してない。かく口汚く罵るものの先生は何も新しい女権主義を根本から否定しているためでは・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・それにまた三田の出身者ではなく、外から飛入りの先生だから、そう長く腰を据えるのはよくないという考もあった。 わたくしの父は、生前文部省の役人で一時帝国大学にも関係があったので、わたくしは少年の頃から学閥の忌むべき事や、学派の軋轢の恐るべ・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・「豆腐屋出身だからなあ。体格が悪るいと華族や金持ちと喧嘩は出来ない。こっちは一人向は大勢だから」「さも喧嘩の相手があるような口振だね。当の敵は誰だい」「誰でも構わないさ」「ハハハ呑気なもんだ。喧嘩にも強そうだが、足の強いのに・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・宇野は隠岐の島出身、つまり日本海である。すると、太平洋のタコは白好きで、日本海のタコは赤好きなのか。きっと、ソ連側だからだろう、などと笑いあったが、魚にそれぞれ好みの色のあるのは疑えない。ボラなども、赤いものなら、風船でも、布でも、なんでも・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・家法最も厳重にして親子相接するにも賓客の如く、曾て行儀を乱りたることなく、一見甚だ美なるに似たれども、気の毒なるは主人公の身持不行儀にして婬行を恣にし、内に妾を飼い外に賤業婦を弄ぶのみか、此男は某地方出身の者にて、郷里に正当の妻を遺し、東京・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 従来、本塾出身の学士が、善く人事に処して迂闊ならずとのことは、つねに世に称せらるるところなれども、吾々はなおこれに安んずるを得ず。よって本月初旬より、内外の社員教員相ともに談じたることもあれば、自今都合次第にしたがい、教場また教則に少・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
出典:青空文庫