・・・第一の短線と第二の短線との間が約十年でこの二つははっきり分かれている。第二短線と第三長線との間は四年しかないので、第三線の初めごろの事がらがどうかすると第二線内の事がらの中に紛れ込んで混同する恐れがある。第三線の長さは約三十年であるが、事が・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・今日の我らが人情の眼から見れば、松陰はもとより醇乎として醇なる志士の典型、井伊も幕末の重荷を背負って立った剛骨の好男児、朝に立ち野に分れて斬るの殺すのと騒いだ彼らも、五十年後の今日から歴史の背景に照らして見れば、畢竟今日の日本を造り出さんが・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ 道の片側は土地が高くなっていて、石段をひかえた寂しい寺や荒れ果てた神社があるが、数町にして道は二つに分れ、その一筋は岡の方へと昇るやや急な坂になり、他の一筋は低く水田の間を向に見える岡の方へと延長している。 この道の分れぎわに榎の・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・――路は分れて二筋となる」「左へ切ればここまで十哩じゃ」と老人が物知り顔にいう。「ランスロットは馬の頭を右へ立て直す」「右? 右はシャロットへの本街道、十五哩は確かにあろう」これも老人の説明である。「そのシャロットの方へ――・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・世間には男女結婚の後、両親に分れて別居する者あり。頗る人情に通じたる処置と言う可し。其両親に遠ざかるは即ち之に離れざるの法にして、我輩の飽くまでも賛成する所なれども、或は家の貧富その他の事情に由て別居すること能わざる場合もある可きなれば、仮・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・河原で分れて二時頃うちへ帰った。そして晩まで垣根を結って手伝った。あしたはやすみだ。四月三日 今日はいい付けられて一日古い桑の根掘りをしたので大へんつかれた。四月四日、上田君と高橋君は今日も学校へ来なかった。・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・工場の大衆から選挙された工場委員会があって、その委員会がいくつかの専門部に分れている。例えば技術詮衡部衛生部その他重要な生産計画部、文化部などがあって、どんな大工場の管理者でもこの工場委員会の決定に従って行動しなければならないようになってい・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・ 小川に分かれて、木村は自分の部屋の前へ行って、帽子掛に帽子を掛けて、傘を立てて置いた。まだ帽子は二つ三つしか掛かっていなかった。 戸は開け放して、竹簾が垂れてある。お為着せの白服を着た給仕の側を通って、自分の机の処へ行く。先きへ出・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・麓の活躍した心臓を圧迫するか、頂の死に逝く肺臓を黙殺するか、この二つの背反に波打って村は二派に分れていた。既に決定せられたがように、譬えこの頂きに療院が許されたとしても、それは同時に尽くの麓の心臓が恐怖を忘れた故ではなかった。 間もなく・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・一本の幹と、簡素に並んだ枝と、楽しそうに葉先をそろえた針葉と、――それに比べて地下の根は、戦い、もがき、苦しみ、精いっぱいの努力をつくしたように、枝から枝と分かれて、乱れた女の髪のごとく、地上の枝幹の総量よりも多いと思われる太い根細い根の無・・・ 和辻哲郎 「樹の根」
出典:青空文庫