・・・「何べん解消しようと思ったかも分れしまへん」 解消という言葉が妙にどぎつく聴こえた。「それを言いだすと、あの人はすぐ泣きだしてしもて、私の機嫌とるのんですわ。私がヒステリー起こした時は、ご飯かて、たいてくれます。洗濯かて、せえ言・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・ とその女を見返したのであるが、そのとき吉田の感じていたことはたぶんこの女は人違いでもしているのだろうということで、そういう往来のよくある出来事がたいてい好意的な印象で物分かれになるように、このときも吉田はどちらかと言えば好意的な気持を・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・ 一分間で言える、僕と或少女と乙な中になった、二人は無我夢中で面白い月日を送った、三月目に女が欠伸一つした、二人は分れた、これだけサ。要するに誰の恋でもこれが大切だよ、女という動物は三月たつと十人が十人、飽きて了う、夫婦なら仕方がないから結・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ 爪先あがりの小径を斜めに、山の尾を横ぎって登ると、登りつめたところがつの字崎の背の一部になっていて左右が海である、それよりこの小径が二つに分かれて一は崎の背を通してその極端に至り一は山のむこうに下りてなの字浦に出る。この三派の路の集ま・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
・・・ そして、少し行くと、それから自分の家へ分れ分れに散らばってしまった。 二 山が、低くなだらかに傾斜して、二つの丘に分れ、やがて、草原に連って、広く、遠くへ展開している。 兵営は、その二つの丘の峡間にあった。・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・それがまだ分っていない。 俺達は、何故貧乏するか。 どうすれば、俺達は、貧乏から解放されるか。 この二つを百姓に十分了解させることが、なによりも必要だ。それが分れば、彼等は誰れに一票を投ずべきかを、ひとりでゞ自覚するのである。・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・やがて小一里も来たところで、さあここらから川の流れに分れて、もう今まで昼となく夜となく眼にしたり耳にしたりしていた笛吹川もこれが見納めとしなければならぬという場所にかかった。そこで歳こそ往かないが源三もなんとなく心淋しいような感じがするので・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・会社に通い給金なり余禄なりなかなかの収入ありしもことごとくこのあたりの溝へ放棄り経綸と申すが多寡が糸扁いずれ天下は綱渡りのことまるまる遊んだところが杖突いて百年と昼も夜ものアジをやり甘い辛いがだんだん分ればおのずから灰汁もぬけ恋は側次第と目・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・お三輪のいう小伝馬町の富田さんとは、石町の御隠居さんの家から分れて出た針問屋にあたる。お三輪の母親が勤めたことのあるあの石町の古い店も疾くの昔に無い。そこから分れた小伝馬町の店でも、孫の子息さんの代にはだんだんちいさくなって、家族も一人亡く・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・繰り返している間には、いくらかこのあいだとはちがった向きへも考えが分かれて進んで行った。それで結局は、何も別段得る物はなかったのであるが、でもせっかく考えた事だからと思って、ノートの端に書き止めておいた。その中のおもな事を改めてここに清書し・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
出典:青空文庫