・・・盗難や詐欺にかかった被害者の女師匠などが、加害者でもなんでもない赤の他人の立派なお役人を、どうでもそうだと言い張る場合などがそれである。 突発した事件の目撃者から、その直後に聞き取ったいわゆる証言でも大半は間違っている。これは実験心理学・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・それがたとえ事実とどれほど離反していても、そんなことは元来加害者にも被害者にも縁故のない赤の他人の一般読者にはどうでもよいのである。「どこかに人殺しがあった」という事実だけが正確でうそでなければ、それ以外の間違いについて新聞社に苦情を持ち込・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・抑も一夫一婦家に居て偕老同穴は結婚の契約なるに、其夫婦の一方が契約を無視し敢て婬乱不品行を恣にし他の一方を疏外するが如きは、即ち之を虐待し之を侮辱することにして、破約加害の大なるものなれば、被害者たる婦人が正々堂々の議論以て其罪を責むるは、・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・昨今の事情においては被害者も加害者も、本質においては同じく被害者であることを知って、根本の責任追究のために一致行動し不幸から脱出しなければならない。 米 一月十日現在として全国の供出米が割当のやっと二割八分しか・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・ 大局からこう考えてくると、現代日本の悲劇である殺人や強盗において、人民たるわれわれは、加害者も、日本の軍閥の被害者であるということがわかり、いってみれば被害者同士だといえる。しかし何んでもない動機で、チョット物がとりたくて人の首をしめ・・・ 宮本百合子 「戦争でこわされた人間性」
・・・法律の上では、押入った人々は加害者であり、侵入された市民は被害者である。けれども、人民の生活と、それを徹底的に傷つけた支配階級の関係を実際に立って観察すれば、兇器を持って私達の生活を攪乱するその人々をも含めて、私たち人民がすべて、強権と犯罪・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫