・・・大きすぎる。北海道とそんなに違わんじゃないかと思った。台湾とは、どうかしら等と真面目に考えた。あの大陸の影が佐渡だとすると、私の今迄の苦心の観察は全然まちがいだったというわけになる。高等学校の生徒は、私に嘘を教えたのだ。すると、この眼前の黒・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・お魚を、お皿に移して、また手を洗っていたら、北海道の夏の臭いがした。おととしの夏休みに、北海道のお姉さんの家へ遊びに行ったときのことを思い出す。苫小牧のお姉さんの家は、海岸に近いゆえか、始終お魚の臭いがしていた。お姉さんが、あのお家のがらん・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・この柳は北海道にはあるが内地ではここだけに限られた特産種で春の若芽が真赤な色をして美しいそうである。 夕飯の膳には名物の岩魚や珍しい蕈が運ばれて来た。宿の裏の瀦水池で飼ってある鰻の蒲焼も出た。ここでしばらく飼うと脂気が抜けてしまうそうで・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・ 山の名の起原についてはそれぞれいろいろの伝説があり、また北海道の山名などではいかにももっともらしい解釈が一つ一つにつけられている。これをことごとく信用するとすれば自分の企てている統計的研究の結果が、できたとしても、それは言語学的に貢献・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・「お前、家は北海道じゃないか。」「あら。どうして知ってなさる。小樽だ。」「それはわかるよ。もう長くいるのか。」「ここはこの春から。」「じゃ、その前はどこにいた。」「亀戸にいたんだけど、母さんが病気で、お金が入るからね・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
こう云う船だった。 北海道から、横浜へ向って航行する時は、金華山の燈台は、どうしたって右舷に見なければならない。 第三金時丸――強そうな名前だ――は、三十分前に、金華山の燈台を右に見て通った。 海は中どころだっ・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・ああ北海道、雑嚢を下げてマントをぐるぐる捲いて肩にかけて津軽海峡をみんなと船で渡ったらどんなに嬉しいだろう。五月十日 今日もだめだ。五月十一日 日曜 曇 午前は母や祖母といっしょに田打ちをした。午后はうちのひば垣・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・高田さんはいままでは北海道の学校におられたのですが、きょうからみなさんのお友だちになるのですから、みなさんは学校で勉強のときも、また栗拾いや魚とりに行くときも、高田さんをさそうようにしなければなりません。わかりましたか。わかった人は手をあげ・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・そんな雑誌としては珍らしい何かの味をもった小篇でその作者の小熊秀雄というひとの名が私の記憶にとどまった。北海道から送られて来る原稿ということも知った。 つづけて二三篇童話がのって、次ぎの春時分の或る日突然その小熊秀雄というひとが家へ訪ね・・・ 宮本百合子 「旭川から」
・・・その指令三百十一号には、突発事故が起きたらできるだけ復旧事務を拒否せよ、民同との摩擦を回避せよ、などという文句があったそうです。北海道に偽の指令が流れたことがあった。この指令もおそらくどこかの家宅捜索をすれば、「そこにもあった」ものとして発・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
出典:青空文庫