・・・七兵衛は口軽に、「とこう思っての、密と負って来て届かねえ介抱をしてみたが、いや半間な手が届いたのもお前の運よ、こりゃ天道様のお情というもんじゃ、無駄にしては相済まぬ。必ず軽忽なことをすまいぞ、むむ姉や、見りゃ両親も居なさろうと思われら、・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・……夜になって、炎天の鼠のような、目も口も開かない、どろどろで帰って来た、三人のさくらの半間さを、ちゃら金が、いや怒るの怒らないの。……儲けるどころか、対手方に大分の借が出来た、さあどうする。……で、損料……立処に損料を引剥ぐ。中にも落第の・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ この燈籠寺に対して、辻町糸七の外套の袖から半間な面を出した昼間の提灯は、松風に颯と誘われて、いま二葉三葉散りかかる、折からの緋葉も灯れず、ぽかぽかと暖い磴の小草の日だまりに、あだ白けて、のびれば欠伸、縮むと、嚔をしそうで可笑しい。・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・石段はその幅半間より狭く、両側は高い壁である。石段を登りつめると、ある家の中庭らしい所へ出た。四方板べいで囲まれ、すみに用水おけが置いてある、板べいの一方は見越しに夏みかんの木らしく暗く茂ったのがその頂を出している、月の光はくっきりと地に印・・・ 国木田独歩 「少年の悲哀」
・・・しかし耶蘇教の神様も存外半間なもので、こういう時にちょっと人を助けてやる事を知らない。そこでもって家賃が滞る――倫敦の家賃は高い――借金ができる、寄宿生の中に熱病が流行る。一人退校する、二人退校する、しまいに閉校する。……運命が逆まに回転す・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・でこうて半間の猟人は或る日ひょんなこってララ狐つかまえた――皮はごか――やれ煮て食おか廻りかねたる智恵助に憂き目を見せてござるうちこすい狐はうまうまとばかしおおせて猟人をあちら、こちらと、引き廻す・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫