・・・しかも、ロシア人にほんとうに日本の俳諧が了解されようとは考えにくいのに、それだのにそのロシア人の目を一度通ったものでなければ、今の日本人は受け付けないのである。浮世絵の相場が西洋人の顧客によって制定されると一般である。また日本人の独創的な科・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・門をはいると、すぐ受付があって私たちはみんな求められて会員証を示しました。これはいかにも偏狭なやり方のようにどなたもお考えでしょうが、実際今朝の反対宣伝のような訳で、どんなものがまぎれ込んで来て、何をするかもわからなかったのですから、全く仕・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・けれども何も悪いことはないのだからと、じぶんでじぶんをはげまして勢よく玄関の正面の受付にたずねました。「お呼びがありましたので参りましたが、レオーノ・キューストでございます。」 すると受付の巡査はだまって帳面を五六枚繰っていましたが・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・「受付はどこでしょう」と私がきいたら『プラウダ』をよみかけていたままの手をうごかして、「ずっと真直入って行くと右側に二つ戸がある、先の方のドアですよ」と教えてくれた。礼を云って歩き出したら「お前さん、どこからかね?」・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・ああ本当にこういうこともある、とすぐ駒込郵便局へペンさんに電話してもらったところ、この頃ずっと小包みは受付けない由、手紙だけ。それも不定期で、その時になってみなければ、飛ぶか飛ばないかわからないということでした。折角の思いつきも右の始末です・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 日本女は右手の受付へ行った。 ――百二十四番の室の許可証を下さい。 ゴム印をおし、番号を書いた紙片を貰って、さらにもう一枚ガラス戸をあけて、表階段をのぼって行った。 二階の壁に、絵入りのスモーリヌイ勤労者壁新聞が張り出して・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
門柱の左には麻田駒之助と標札が出ていて、門内右手の粗末な木造洋館がその時分中央公論社の編輯局になっていた。受付で待っていると、びっくりするばかりの赭ら顔に髪の毛をもしゃとし、眼付が足柄山の金時のような感じを与える男の人が、・・・ 宮本百合子 「その頃」
・・・そこだけは、カタログ室からも一般閲覧室からも遠くはなれていて、薄暗い灯にぼんやり照らされたその長廊下を受付けまで歩いて来る宵のくちの図書館の気分は、独特であった。暗くなって、その室の人数が一人一人減ってゆくと、少女の心は落付いていにくかった・・・ 宮本百合子 「図書館」
・・・ やっぱり柵の間を通るようになっていて、そこにテーブルをひかえてこちら向きに受付がいる。そこで閲覧料を十銭だせ、と書いてある。十銭ですか、特別も? 黒い毛ジュスの事務服を着た中爺さんは、首だけで合点して、そう、と答えた。この役人風な調子・・・ 宮本百合子 「図書館」
・・・ 夕闇の濃くなったそとへ出ようとする玄関口の受付に、電燈がともっていた。そこにかたまっている若い人々の群の中から、つとはなれて、ひろ子の前に来て立った人があった。その顔は笑っている。瞬間、とまどったひろ子は、目を据えてみて、「まあ、・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫