・・・そこには、幾何、流浪の旅に上った芸術家があったか知れない。そこには同志を求めて、追われ、迫害されて、尚お、真実に殉じた戦士があったか知れない。 彼等は、この憧憬と情熱とのみが、芸術に於て、運動に於て、同じく現実に虐げられ、苦しみつゝある・・・ 小川未明 「彼等流浪す」
・・・新しい芸術上の運動も、そのはじめは、同志の綜合であり、同人雑誌を戦闘の機関としなかったものはなかったからです。 東京堂月報に拠ると昭和八年上半期の新刊書数は、実に二千四百余種に達しています。これに後半期を入れて一ヶ年にしたら、夥しき・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・に出て来る大阪弁はやはり純大阪弁でなくて大和の方の言葉であり、「人間同志」には岸和田あたりの大阪弁が出て来る。川端康成氏の「十六歳の日記」は作者の十六歳の時の筆が祖父の大阪弁を写生している腕のたしかさはさすがであり、書きにくい大阪弁をあれだ・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・ この河童の尻が、数え年二百歳か三百歳という未だうら若い青さに痩せていた頃、嘘八百と出鱈目仙人で狐狸かためた新手村では、信州にかくれもなき怪しげな年中行事が行われ、毎年大晦日の夜、氏神詣りの村人同志が境内の暗闇にまぎれて、互いに悪口を言・・・ 織田作之助 「猿飛佐助」
・・・若い女ばかり集まる処だからお秀の性質でもまさかに寝衣同様の衣服は着てゆかれず、二三枚の単物は皆な質物と成っているし、これには殆ど当惑したお富は流石女同志だけ初めから気が付いていた。お秀の当惑の色を見て、「気に障えちゃいけないことよ、あの・・・ 国木田独歩 「二少女」
・・・自分では理由をつけて俺等は、多くの屍をふみ越して、その向うへ進んで行かなければならない。同志の屍を踏みこして。それから敵の屍をふみこして、と。だが、彼が云うようなことはあてになったもんじゃない。 彼は、勉強家でもない。律儀な、几帳面な男・・・ 黒島伝治 「自画像」
・・・そして、新しく這入ろうとする兵営の生活に対する不安と、あとに残してきた、工場や農村の同志、生活におびやかされる一家のことなどを、なつかしく想いかえす。心配する。 兵営は暗く、新しく着せられるカーキ色の羅紗の服は固ッくるしい。若ものたちは・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・我等同志がためになり申す。……黙然として居らるるは……」「不承知と申したら何となさる。」「ナニ。いや、不承知と申さるる筈はござるまい。と存じてこそ是の如く物を申したれ。真実、たって御不承知か。」「臙脂屋を捻り潰しなさらねばなりま・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・これは、だが、これまでゞ何百人の同志を運んだ車だろう。俺は自分の身のまわりを見、天井を見、スプリングを揺すってみた。 六十日目に始めてみる街、そしてこれから少なくとも二年間は見ることのない街、――俺は自動車の両側から、どんなものでも一つ・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・ 見ず知らずの人達と一緒ではあるが患者同志が集団として暮して行くこと、旧い馴染の看護婦が二人までもまだ勤めていること、それに一度入院して全快した経験のあること――それらが一緒になって、おげんはこの病院に移った翌日から何となく別な心地を起・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
出典:青空文庫