・・・花の如く、玉の如く、愛すべく、貴むべく、真に児女子の風を備えて、かの東京の女子が、断髪素顔、まちだかの袴をはきて人を驚かす者と、同日の論にあらざるなり。 この学校は中学の内にてもっとも新なるものなれば、今日の有様にて生徒の学芸いまだ上達・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・冒色勝手次第に飛揚して得々たるも、不幸にして君子の耳目に触るるときは、疵持つ身の忽ち萎縮して顔色を失い、人の後に瞠若として卑屈慚愧の状を呈すること、日光に当てられたる土鼠の如くなるものに比すれば、また同日の論にあらざるなり。 近来世間に・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・かの魚彦がいたずらに『万葉』の語句を模して『万葉』の精神を失えるに比すれば、曙覧が語句を摸せずしてかえって『万葉』の精神を伝えたる伎倆は同日に語るべきにあらず。さわれ曙覧は徹頭徹尾『万葉』を擬せんと務めたるに非ず。むしろその思うままを詠みた・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・固より他の紀行と同日に論ずべきものでないのみならず、凡そこれほどの紀行はちょっとこの頃見た事がないように思う。ただ傍人より見れば新聞取次店または地方歓迎者の名前を一々列記したるだけはややうるさい感があるが、それはこの紀行の目的の一部であるか・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・天明以後絵画にわかに勃興して美術史に一紀元を与えたることにつきて、蕪村もまた多少の原因をなさざりしにはあらざるも、その影響はきわめて微弱にして、彼が俳句界における関係と同日に論ずべきにあらず。 天明は狂歌盛んに行われ、黄表紙ようやく勢い・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・つづいて、鴎外は乃木夫妻の納棺式に臨み、十八日の葬式にも列った。同日の日記に「興津彌五右衛門を艸して中央公論に寄す」とあって、乃木夫妻の死を知った十四日から三日ぐらいの間に、しかもその間には夫妻の納棺式や葬儀に列しつつ、この作品は書かれたの・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・志賀氏の作品と探偵小説とを同日に論ずべきでないが、しかし、日本のインテリゲンツィアの思想史、生きる態度、人間性の質量と方向の推移とをこの二つの作品によって調べることは可能である。 志賀氏の場合、范の理性は、法律上の物的証拠よりより深い人・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・正木昊弁護人は同日「私は共産党には反対であるが、それよりも白いものを黒いとすることにはいっそう反対である。白いものを権力をもって黒いとすることは人道に反することである。権力を用いて白を黒にするなどということは全世界の人類を侮べつするものであ・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・私共には、前司法大臣が破廉恥罪で下獄すると報道されている同日の新聞に、前鉄相が五万円の収賄で召喚されることを読む方が、恥といえば何か恥に近いものがあると感じられるのである。 外国人の男に対して、日本の女が概して無防禦であり、惚れっぽいと・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・昨年の『慈悲光礼讃』に比べれば、その観照の着実と言い対象への愛と言い、とうてい同日に論ずべきでない。 が、この実証は自分に満足を与えたとは言えない。自分はこの種の写実の行なわれないのを絵の具の罪よりもむしろ画家の罪に帰していた。画家にし・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫