・・・何処までも自己の中に自己否定を含み、自己否定を媒介として働くものというのは、自己自身を対象化することによって働くものでなければならない。表現するものが表現せられるものであり、自己表現的に働く、即ち知って働くものが、真に自己自身の中に無限の否・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・但し記者が此不和不順を始めとして、以下憤怒怨恨誹謗嫉妬等、あらん限りの悪事を書並べて婦人固有の敗徳としたるは、其婦人が仮令い之を外面に顕わさゞるも、心中深き処に何か不平を含み、時として之を言行に洩らすことありとて、其心事微妙の辺を推察したる・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・就中彼らは耶蘇教の人なるが故に、己れの宗旨に同じからざる者を見れば、千百の吟味詮索は差置き、一概にこれを外教人と称して、何となく嫌悪の情を含み、これがために双方の交情を妨ぐること多きは、誠に残念なる次第にして、我輩は常にその弁明に怠らず。日・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・等の切字を含み、しからざるも七音の句必ず四三または三四と切れたるを見る。蕪村の句には夕風や水青鷺の脛を打つ鮓を圧す我れ酒醸す隣あり宮城野の萩更科の蕎麦にいづれのごとく二五と切れたるあり、若葉して水白く麦黄ばみ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・現代文学の歴史のなかでフランスは文化の上におちかかる暴力への抗議者として、様々の矛盾を含みながらも動いたことは人々の記憶に新しい事実である。 フランスは今度の第二次大戦でドイツに敗北した。そのことから与えられた衝撃は或る意味では世界的な・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・ それでも、両者の或る点での対立を含みつつ、文学全体としての文化の面に於ける存在の確固性というものは明瞭に意識されていた。ある人は文学のためにプロレタリア文学運動等というものは「花園を荒すものである」と思っていたであろうし、反対に、文学・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・い執拗な筆致等は、主人公の良心の表現においても、当時の文壇的風潮をなしていた行為性、逆流の中に突立つ身構えへの憧憬、ニイチェ的な孤高、心理追求、ドストイェフスキー的なるもの等の趣向に一縷接したところを含み、その好評に於ても、プロレタリア文学・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・と申す古歌に本づき、銘を初音とつけたり、かほどの品を求め帰り候事天晴なり、ただし討たれ候横田清兵衛が子孫遺恨を含みいては相成らずと仰せられ候。かくて直ちに清兵衛が嫡子を召され、御前において盃を申付けられ、某は彼者と互に意趣を存ずまじき旨誓言・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・と申す古歌に本づき、銘を初音とつけたり、かほどの品を求め帰り候事天晴なり、ただし討たれ候侍の子孫遺恨を含みいては相成らずと仰せられ候。かくて直ちに相役の嫡子を召され、御前において盃を申つけられ、某は彼者と互に意趣を存ずまじき旨誓言致し候。・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
・・・そこで、感覚と新感覚との相違であるが、新感覚は、その触発体としての客観が純粋客観のみならず、一切の形式的仮象をも含み意識一般の孰れの表象内容をも含む統一体としての主観的客観から触発された感性的認識の質料の表徴であり、してその触発された感性的・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫