・・・この寒さにお堀端の吹き曝しへ出ましては、こ、この子がかわいそうでございます。いろいろ災難に逢いまして、にわかの物貰いで勝手は分りませず……」といいかけて婦人は咽びぬ。 これをこの軒の主人に請わば、その諾否いまだ計りがたし。しかるに巡査は・・・ 泉鏡花 「夜行巡査」
・・・ 何年か前まではこの温泉もほんの茅葺屋根の吹き曝しの温泉で、桜の花も散り込んで来たし、溪の眺めも眺められたし、というのが古くからこの温泉を知っている浴客のいつもの懐旧談であったが、多少牢門じみた感じながら、その溪へ出口のアーチのなかへは・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・飯場には吹き曝しであるにしても風呂が湧いていた。風呂は晩酌と同じ程、彼等へ魅力を持っていた。 川上の方は、掘鑿の岩石を捨てた高台になっていて、ただ捲上小屋があるに過ぎなかった。その小屋は蓆一枚だけで葺いてあった。だから、それはただ気休め・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・棺にも入れずに死骸許りを捨てるとなると、棺の窮屈という事は無くなるから其処は非常にいい様であるが、併し寐巻の上に経帷子位を着て山上の吹き曝しに棄てられては自分の様な皮膚の弱い者は、すぐに風を引いてしまうからいけない。それでチョイと思いついた・・・ 正岡子規 「死後」
出典:青空文庫