・・・マルクスは唯物史観に立脚したと称せられているけれども、もし私の理解が誤っていなかったならば、その唯物史観の背後には、力強い精神的要求が潜んでいたように見える。彼はその宣言の中に人々間の精神交渉を根柢的に打ち崩したものは実にブルジョア文化を醸・・・ 有島武郎 「想片」
・・・ 個人は、集団に属するのが本当だというようなことから、なんでも、集団的に、階級的に見ようとするのは、この人生は、常に、唯物的に闘争しつゝあるという見解のもとに、疑いを抱かない、肯定的な議論であります。社会科学としては、それも重きをなす学・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・ レーニンの弁証法に、ブハーリンの史的唯物論に、もとより真理のある事を否まない。且つ、科学的基礎のあることをば信ずる。たゞこれを漫然と繙くものに、いずこにか、ナロードニーキの運動を嗤う権利があろう? 現代は、科学的という言葉に、あま・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・人間性というものが、科学との間に矛盾を来たすとも考えていない。唯物史観は真理であるけれども、人間の精神的の飛躍がなかったら創造されぬ如く、感情の真も知識の真も畢竟するところ合致すべき一点があるように考えられる。二 その話は別とし・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
・・・アナーキストとして有名なクロポトキンには著書『倫理学』があり、マルクス主義運動家時代のカウツキーにさえ『倫理学と唯物史観』の著があるくらいである。ドイツ無産政党の組織者であったラサールには倫理学的エッセイ多く、エンゲルスや、シュモルラーには・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・私は学生への同情の形で、その平板と無感激とをジャスチファイせんとする多くの学生論、青年論の唯物的傾向を好まぬものだ。夢見ると夢見ぬとはその環境にあるのでなく、その素質にあるのだ。王子が必ずしも夢見はしない。が大工の息子もまた夢見る。如何なる・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・私は、大地主の子である。転向者の苦悩? なにを言うのだ。あれほどたくみに裏切って、いまさら、ゆるされると思っているのか。裏切者なら、裏切者らしく振舞うがいい。私は唯物史観を信じている。唯物論的弁証法に拠らざれば、どのような些々たる現象をも、・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・アンチテエゼの成立が、その成立の見透しが、甚だややこしく、あいまいになって来て、自己のかねて隠し持ったる唯物論的弁証法の切れ味も、なんだか心細くなり、狼狽して右往左往している一群の知識人のためにも、この全体主義哲学は、その世界観、その認識論・・・ 太宰治 「多頭蛇哲学」
人生はチャンスだ。結婚もチャンスだ。恋愛もチャンスだ。と、したり顔して教える苦労人が多いけれども、私は、そうでないと思う。私は別段、れいの唯物論的弁証法に媚びるわけではないが、少くとも恋愛は、チャンスでないと思う。私はそれ・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・』に気づくべき筈なのに、帰りて、まず、唯物論的弁証法入門、アンダラインのみを拾いながらでもよし、まず、十頁、読み直せ。お話は、それから、再びし直そう。」かく言いて、その日は、わかれた。 リアルの最後のたのみの綱は、記録と、統計と、し・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
出典:青空文庫