・・・今なら私は河上氏の言葉をこう解する、「河上氏も私も程度の差こそあれ、第四階級とは全く異なった圏内に生きている人間だという点においては全く同一だ。河上氏がそうであるごとく、ことに私は第四階級とはなんらの接触点をも持ちえぬのだ。私が第四階級の人・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・ブルジョアジーの生活圏内に生活したものは、誰でも少し考えるならば、そこの生活が、自壊作用をひき起こしつつあることを、感じないものはなかろう。その自壊作用の後に、活力ある生活を将来するものは、もとよりアリストクラシーでもなければ、富豪階級でも・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・膏の燼きた燈火のように明滅していた当時の小説界も龍渓鉄腸らのシロウトに新らしい油を注ぎ込まれたが、生残った戯作者の遺物どもは法燈再び赫灼として輝くを見ても古い戯作の頭ではどう做ようもなく、空しく伝統の圏内に彷徨して指を啣えて眼を白黒する外は・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・出版圏内の限られたことと、この際、衆俗の意嚮と趣味を無視することのできない資本主義から、ます/\作品の商品化をよぎなくするものがあるのを考えるからである。 尚お、他方には思想の性質上表現の自由を有しないものがある。是等のことは、人間生活・・・ 小川未明 「正に芸術の試煉期」
・・・而してその当然の解釈が、信ぜず従わずをもって単なる現状の告白とせず、進んでこれを積極の理想とするに傾くとすれば、これも私には疑惑圏内の一要素となるばかりで、最後の解決とはならない。 かくのごとくしていわゆる人生観上の自然主義も私には疑い・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・彼が重力の理論で手を廻さなかった電磁気論は、ワイルによって彼の一般相対性原理の圏内に併合されたようである。これが成効であるとしても、まだ彼の目前には大きな問題が残されている。それはいわゆる「素量」の問題である。この問題にも彼は久しい前から手・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・なかんずく本邦学者の多年の熱心な研究のおかげで颱風の構造に関する知識、例えば颱風圏内における気圧、気温、風速、降雨等の空間的時間的分布等についてはなかなか詳しく調べ上げられているのであるが、肝心の颱風の成因についてはまだ何らの定説がないくら・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・この意味でまた日本各地の民謡などもこのいわゆるオルフィズムの圏内に入り込むものであるかもしれない。 詩形が短い、言葉数の少ない結果としてその中に含まれた言葉の感覚の強度が強められる。同時にその言葉の内容が特殊な分化と限定を受ける。その分・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・これと似寄ったことでは、レーノルズの減摩油の作用の研究などもやはりそれまではほとんど物理学の圏外にあった問題をその圏内に引き入れたものだと言われよう。また同じレーノルズの砂の膨張性に関する研究は、その後あまり注目する人もなかったようである。・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・前者は与えられた一つのものに内在する有機的構造を分析展開して見せるに対して、後者は与えられた離れ離れの材料からそれによって合成されうべき可能の圏内に独創機能を働かせて建築を構成し綾錦を織り成すものだとも言われないことはないのである。こういう・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫