・・・むしろ宗教との対決、作家が神の地位を奪おうとした時に、大文学が生れた。と、こんなことを言っても、何にもならない。ただ、僕はこの国に宗教のないことを、文学のためにそんなに悲しまないが、宗教との対決にまで行く作家のいないことは悲しむ。やはり、宗・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・前は青田、青田が尽きて塩浜、堤高くして海面こそ見えね、間近き沖には大島小島の趣も備わりて、まず眺望には乏しからぬ好地位を占むるがこの店繁盛の一理由なるべし。それに町の出口入り口なれば村の者にも町の者にも、旅の者にも一休息腰を下ろすに下ろしよ・・・ 国木田独歩 「置土産」
・・・ 私の知ってるある文筆夫人に、女学校へも行かなかった人だが、事情あって娘のとき郷里を脱け出て上京し、職業婦人になって、ある新聞記者と結婚し、子どもを育て、夫を助けて、かなり高い社会的地位まで上らせ、自分も独学して、有名な文筆夫人になって・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・彼らが社会的に輝やかしい地位をかち得ないのは当然である。 汚れた快楽を追うことの今ひとつの害毒は浪費である。このことは卒業後の生活の物質的計画をきわめて困難な、不可能に近いものに考えさせるようになる。物質的清貧の中で精神的仕事に従うとい・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・併し、近頃になるに従って、百姓の社会的地位、経済的地位が不利になって生活が行きつまって苦るしくなって来ている。それを親爺は理論的に説明することはよくしないが、具体的な実例によって、知っている僕は、たびたび親爺の話をきいたものだ。親爺も、僕達・・・ 黒島伝治 「小豆島」
・・・うまい口上を並べて自分に投票させ、その揚句、議員である地位を利用して、自分が無茶な儲けをするばかりであることを、百姓達は、何十日となく繰返えして見せつけられて来た。 だから、投票してやるからには、いくらでも、金を取ってやらなければ損だ、・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・たような世話焼が二三人――それは即ち塾生中の先輩でして、そして別に先生から後輩の世話役をしろという任命を受けて左様いう事を仕て居るというのでも無いのですが、長らく先生の教を受けて居る中に自然と左様いう地位に立たなければならぬように、自然と出・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・お前さんだって、わたしがあの地位に坐ったのを怨まないわけにはいかないでしょう。それはわたしのせいじゃないのだけれど。事によったらお前さんのあの座から出て行くようになったのを、わたしのした事だとお思いかも知れないが、それは違ってよ。お前さんは・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・その、あいつというのは、博士と高等学校、大学、ともにともに、机を並べて勉強して来た男なのですが、何かにつけて要領よく、いまは文部省の、立派な地位にいて、ときどき博士も、その、あいつと、同窓会などで顔を合せることがございまして、そのたびごとに・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・そうして、結城孫三郎やダークのマリオネット、ないしはギニョールのパンチとジュデーなどに対する独特の地位を全然喪失してしまうことは明白である。従って、チャンバレーンにも、メートル、ペリーにも、クーシューにもわからなかったこの東洋日本特産芸術が・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
出典:青空文庫