・・・白粉が地肌を隠したように、この数年間の生活が押し隠していた野性だった。………「牧野め。鬼め。二度の日の目は見せないから、――」 お蓮は派手な長襦袢の袖に、一挺の剃刀を蔽ったなり、鏡台の前に立ち上った。 すると突然かすかな声が、ど・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・斑ら生えのしたかたくなな雑草の見える場所を除いては、紫色に黒ずんで一面に地膚をさらけていた。そして一か所、作物の殻を焼く煙が重く立ち昇り、ここかしこには暗い影になって一人二人の農夫がまだ働き続けていた。彼は小作小屋の前を通るごとに、気をつけ・・・ 有島武郎 「親子」
・・・るように五、六歩あるきかけて、また引返し、上衣の内ポケットから私の仲間の百円紙幣を五枚取り出し、それからズボンのポケットから私を引き出して六枚重ねて二つに折り、それを赤ちゃんの一ばん下の肌着のその下の地肌の背中に押し込んで、荒々しく走って逃・・・ 太宰治 「貨幣」
出典:青空文庫