・・・ 小説家春の家おぼろの当世書生気質第十四回には明治十八九年頃の大学生が矢場女を携えて、本郷駒込の草津温泉に浴せんとする時の光景が記述せられて居る。是亦当時の風俗を窺う一端となるであろう。其文に曰く、「草津とし云へば臭気も名も高き、其本元・・・ 永井荷風 「上野」
・・・そうだとするとおれがあんな大学生とでも引け目なしにぱりぱり談した。そのおれの力を感じていたのかも知れない。それにおれには鉱夫どもにさえ馬鹿にはされない肩や腕の力がある。あんなひょろひょろした若造にくらべては何と云ってもおみちにはおれのほうが・・・ 宮沢賢治 「十六日」
・・・ニュウヨウクで二三遍話したんです。大学生です。」 その青年は少し激昂した風で演説し始めました。「ご質問に対してできるだけ簡単にお答えしようと思います。 人類の食料は動物と植物と約半々だ。そのうち動物を食べないじゃ食料が半分に減る・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ それから二三日たって、そのフランドンの豚は、どさりと上から落ちて来た一かたまりのたべ物から、(大学生諸君、意志を鞏固にもち給たべ物の中から、一寸細長い白いもので、さきにみじかい毛を植えた、ごく率直に云うならば、ラクダ印の歯磨楊子、それ・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・ 青年時代のカールは、生活の自然なよろこびを心おきなく楽しみ、人づきあいも広く、勉強ずきだが、学資はいつの間にやらたりなくなっているという風なところがあったらしい。大学生同士の借金で相当困ったこともあったらしい。父マルクスは、こういう時・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・彼が土を掘ってこそいるが、或る精神力のようなものをも持っていて、世界のいろいろな出来事に興味を感じ、その興味を裏づけるに必要な知識を、若い大学生から得たい心持でいるのがよく察せられた。「支那、大分騒いでいるらしいが――どう云うんだっぺえ・・・ 宮本百合子 「北へ行く」
・・・僕ァこんなところで……僕ァダダ大学生です!」 声を出して咽び泣いている。「五月蠅え野郎だナ。寝ねえか!」 眼の大きい与太者がドス声でどやしつけている。「ねます! ねますッ。僕ァ……口惜しいです。僕ァ……ウ、ウ、ウ……」 ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・二十五万人の女子大学生と男子大学生にきいてみたい。日本の人民の独立に関する一つの問題としてあれほどみんなが関心をもった大学法案、二十七名の中立的な学者たちが反対署名した非日委員会問題、「南原の線を守る」という表現がある意味では常識となって来・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・木曜会で初めて近づきになった赤木桁平、内田百間、林原耕三、松浦嘉一などの諸君は、皆まだ大学生であった。また古顔の連中は、鈴木三重吉のほかは皆一高出であったが、若い大学生では赤木、内田両君が六高、松浦君が八高出であった。だから私はちょうどこの・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
・・・当時まだ二十歳で、初めて大学生になったわたくしなどには、全然事情は解らなかったが、専門の哲学者の間では、あるいは少なくとも一部の哲学者の間では、先生の力量はすでに認められていたのであろう。哲学者の先生に対する態度にしても、少し後のことではあ・・・ 和辻哲郎 「初めて西田幾多郎の名を聞いたころ」
出典:青空文庫