・・・釣の妙趣は、魚を多量に釣り上げる事にあるのでは無くて、釣糸を垂れながら静かに四季の風物を眺め楽しむ事にあるのだ、と露伴先生も教えているそうであるが、佐野君も、それは全くそれに違いないと思っている。もともと佐野君は、文人としての魂魄を練るため・・・ 太宰治 「令嬢アユ」
・・・ 四 この原理を物理学上の一原理として見た時の「妙趣」あるいは「価値」が主としてどこにあるか。それが数式にあるか、考えの運び方にあるか。これもほとんど問題にならないほど明らかであるように私は思う。数式は彼の考えを・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
一 連句で附句をする妙趣は自己を捨てて自己を活かし他を活かす事にあると思う。前句の世界へすっかり身を沈めてその底から何物かを握んで浮上がって来るとそこに自分自身の世界が開けている。 前句の表面に・・・ 寺田寅彦 「断片(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ 共同作者らの唱和応答の間に、消極的には謙譲礼節があり、積極的には相互扶助の美徳が現われないと、一句一句の興味はあっても一巻の妙趣は失われる。この事を考慮に加えずして連俳を評し味わうことは不可能である。真正面から受ける「有心」の付け句が・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・筆にも口にも説き尽すべからざる理想の妙趣は、輪扁の木を断るがごとくついに他に教うべからずといえども、一棒の下に頓悟せしむるの工夫なきにしもあらず。蕪村はこの理想的のことをなお理想的に説明せり。かつその説明的なると文学的なるとを問わず、かくの・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫