・・・これを自分の現在の場合の言葉に翻訳すると、「研究の手首を柔らかくして、実験の弓で自然の弦線の自然の妙音を引き出せばよい」とも言われるであろう。研究者によって先天的の手首の個性の差異から来る手つきの相違はあっても、結局ほんとうの音を出せばよい・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・日本の民衆音楽中でも、歌詞を主としない、純粋な器楽に近いものとしての三曲のごときも、その表現せんとするものがしばしば自然界の音であり、また楽器の妙音を形容するために自然の物音がしばしば比較に用いられる。日本人は音を通じても自然と同化すること・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・先生、先生は、月夜に立ちのぼる水の、不思議に蠱惑的な薫りを御存じでございますか、扁平な櫂に当って転げる水玉の、水晶を打つ繊細な妙音を御存じでございますか。―― けれども、自然は決して単調な議事ではございません。時には息もつまるような大暴・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫