・・・と、蒸し暑い六月の太陽は、はげしく、僕等を頭から煎りつけた。 嫂は働かなかった。親爺も、おふくろも、虹吉も満足だった。親爺が満足したのは、田地持ちの分限者の「伊三郎」と姻戚関係になったからである。おふくろが満足したのは、トシエが二タ棹の・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・最近では去年大阪にいる子息のところへしばらく行っていたので、その嫁の姻戚でまた主人筋になっている人につれられて、方々連れて歩かれた。「それじゃ辰之助さんに電話をかけましょうか」お絹自身はあまり悦びもしなかったが、行きたくなくもないふうで・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・今その最も甚しきものを挙ぐれば、配偶者の趣味性行よりもむしろ配偶者の父母兄妹との交際についてである。姻戚の家に冠婚葬祭の事ある場合、これに参与するくらいの事は浮世の義理と心得て、わたくしもその煩累を忍ぶであろうが、然らざる場合の交際は大抵厭・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・彼は遠い村の姻戚へ「マチ呼バレ」といって招かれて行った。二日目の日が暮れてから帰って来た。隣村の茶店まで来た時そこには大勢が立ち塞って居るのを見た。隣村もマチであった。唄う声と三味線とが家の内から聞えて来る。彼はすぐに瞽女が泊ったのだと知っ・・・ 長塚節 「太十と其犬」
出典:青空文庫