・・・「泣きみ、笑いみ……ははッ、ただ婦女子のもてあそびものにござりまする。」「さようか――その儀ならば、」……仔細ない。 が、孫八の媼は、その秋田辺のいわゆるではない。越後路から流漂した、その頃は色白な年増であった。呼込んだ孫八が、九郎判官・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・この男は、よわい既に不惑を越え、文名やや高く、可憐無邪気の恋物語をも創り、市井婦女子をうっとりさせて、汚れない清潔の性格のように思われている様子でありますが、内心はなかなか、そんなものではなかったのです。初老に近い男の、好色の念の熾烈さに就・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・考えてみると、それは婦女子の為すべき奉公で、別段誇るべきほどのことでも無かった。私はやっぱり阿呆みたいに、時流にうとい様子の、謂わば「遊戯文学」を書いている。私は、「ぶん」を知っている。私は、矮小の市民である。時流に対して、なんの号令も、で・・・ 太宰治 「鴎」
・・・ 小説と云うものは、そのように情無いもので、実は、婦女子をだませばそれで大成功。その婦女子をだます手も、色々ありまして、或いは謹厳を装い、或いは美貌をほのめかし、あるいは名門の出だと偽り、或いはろくでもない学識を総ざらいにひけらかし、或・・・ 太宰治 「小説の面白さ」
・・・何が、だってだ、そんなに強く叱咤されても、一向に感じないみたいにニタニタと醜怪に笑って、さながら、蹴られた足にまたも縋りつく婦女子の如く、「それでは希望が無くなりますもの。」男だか女だか、わかりやしない。「いったい私は、どうしたらいいのかな・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・およそ婦女子にもてざる事、わが右に出ずる者はあるまじ。顔面の大きすぎる故か。げせぬ事なり。やむなく我は堅人を装わんとす。 十、数奇好み無からんと欲するも得ざるなり。美酒を好む。濁酒も辞せず。十一、わが居宅は六畳、四畳半、三畳の三部屋・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・なお俗間の婦女子が俳優を悦び、男子が芸妓を愛するが如し。そのこれを愛するや、必ずしも色慾に出ずるに非ず。ただこれを観て我が情を慰むるのみ。すなわち我が形体に関係なくして他の美を悦ぶものなり。すでに社会の美を欲す。然らばすなわち、その醜を悪む・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・ 然るに今日において、未だ男子の奔逸を縛するの縄は得ずして、先ずこの良家の婦女子を誘うて有形の文明に入らしめんとす、果たして危険なかるべきや。居は志を移すという。婦女子の精神未だ堅固ならざる者を率いて有形の文明に導くは、その居を変ずるも・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・三度の食事も覚束なき農民の婦女子に横文の素読を教えて何の益をなすべきや。嫁しては主夫の襤褸を補綴する貧寒女子へ英の読本を教えて後世何の益あるべきや。いたずらに虚飾の流行に誘われて世を誤るべきのみ。もとより農民の婦女子、貧家の女子中、稀に有為・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
二、三日前の新聞に、北満の開拓移民哈達河開拓団二千名の人々が、敗戦と同時に日本へ引揚げて来る途中、反乱した満州国軍の兵に追撃され、四百数十名の婦女子が、家族の内の男たちの手にかかって自決させられたという記事がありました。・・・ 宮本百合子 「講和問題について」
出典:青空文庫