・・・我々はいっせいに起ってまずこの時代閉塞の現状に宣戦しなければならぬ。自然主義を捨て、盲目的反抗と元禄の回顧とを罷めて全精神を明日の考察――我々自身の時代に対する組織的考察に傾注しなければならぬのである。 五 明日の考・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・文人は社会に対して宣戦せよ。"Murmur"するよりは"Strike"せよ、"Complain"するよりは"Curse"せよ。新らしき思想の世界を拓かんとする羊・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・マレー半島に奇襲上陸、香港攻撃、宣戦の大詔、園子を抱きながら、涙が出て困った。家へ入って、お仕事最中の主人に、いま聞いて来たニュウスをみんなお伝えする。主人は全部、聞きとってから、「そうか。」 と言って笑った。それから、立ち上って、・・・ 太宰治 「十二月八日」
・・・ しかし戦争にならなければそちらへ行けるでしょうと約束した月曜には、独軍が宣戦の布告もせずに武力に訴えながらベルギーを通過してフランスに侵入した。 パリの母は再び娘たちに書いた。「お互いにしばらくは、通信もできないかも知れません・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・どこへの宣戦布告だ?――芝居がはねたのだ。舞台衣裳に働かす活溌な想像力はパイプのやにの中にさえ待ち合わさぬロンドンの一流から四流までの劇場で、幕が下り、また幕が上り、舞台から夜会服の男女俳優が同じように夜会服の男女観客に向ってうわ目を使いつ・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・全く侵略的な日本の支配者が独断で、人民に一言、一度の相談なく、天皇が宣戦詔勅を出して始めた戦争である。数百万の人が今度の戦争で命を失った。しかし、その人々は、言葉の正しい意味で自分達でした戦争で死んだのではなくて、不幸なその人達及び、私達人・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫