・・・なんだか、のどまで出かかっている、ほんとうの愛の宣言が私にも在るような気がするのであるが、言えない。知っていながら、言わないのではない。のどまで出かかっているような気がするのだが、なんとしても出て来ない。それはほんとうにいい言葉のような気も・・・ 太宰治 「鴎」
・・・などという思想発展の回想録或いは宣言書を読んでも、私には空々しくてかなわない。彼等がその何々主義者になったのには、何やら必ず一つの転機というものがある。そうしてその転機は、たいていドラマチックである。感激的である。 私にはそれが嘘のよう・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・とかねて妻に向って宣言していたのですが、「その時」がいま来たように思われました。 窓外の風景をただぼんやり眺めているだけで、私には別になんのいい智慧も思い浮びません。或る小さい駅から、桃とトマトの一ぱいはいっている籠をさげて乗り込んで来・・・ 太宰治 「たずねびと」
・・・ 父が死んでから、私の家の内部もあまり面白くない事ばかりでございまして、私は家の事はいっさい母と弟にまかせると宣言いたしまして、十七の春に東京に出て、神田の或る印刷所の小僧になりました。印刷所と申しましても、工場には主人と職工二人とそれ・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・ お篠は、二人の朋輩を前にして、宣言した。「あたしは、こんどは、このひとを好きになる事にしましたから、そのつもりでいて下さい。」 二人の朋輩は、イヤな顔をした。そうして、二人で顔を見合せ、何か眼で語り、それから二人のうちの若いほ・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・十五歳の時にはもう大学に入れるだけの実力があるという事を係りの教師が宣言した。 しかし中等学校を卒業しないうちに学校生活が一時中断するようになったというのは、彼の家族一同がイタリアへ移住する事になったのである。彼等はミランに落着いた。そ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・例えば今月中少なくも各一回の雨天と微震あるべしというごとき予報は何人も百発百中の成効を期して宣言するを得べし。ここに問題となるは予報の実用的価値を定むべき標準なり。 予報によりて直接間接に利便を感ずべき人間の精神的物質的状態は時並びに空・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・をして「あの男です、あの男です」と叫ばせ、満場を総立ちにさせ、陪審官一斉に靴磨きの「無罪」を宣言させ、そうして狂喜した被告が被告席から海老のようにはね出して、突然の法廷侵入者田代公吉と海老のようにダンスを踊らせさえすれば、それでこの「与太者・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・そうして、自分は地獄へ行って見物して来たと宣言して、人々に見て来たあの世のさまを物語って聞かせたら聞くものひどく感動して号泣し、そうして彼はいよいよ神様だということになった。地下室にいた間は母にたのんで現世の出来事に関する詳細なノートをとっ・・・ 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
・・・自分に必要なものを選択して摂取し、不用なもの有害なものを拒否し排出するのが、人間のみならずあらゆる生物の本性だということは二千年前のストア哲学者が既に宣言していることである。生物が無生物とちがうのもこの点においてである。 これも近頃聞い・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
出典:青空文庫