・・・ 朝飯を済まして、書留だったらこれを出せと云って子供に認印を預けて置いて、貸家捜しに出かけようとしている処へ、三百が、格子外から声かけた。「家も定まったでしょうな? 今日は十日ですぜ。……御承知でしょうな?」「これから捜そうとい・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・「今日はひょっとしたら大槻の下宿へ寄るかもしれない。家捜しが手間どったら寄らずに帰る」切り取った回数券はじかに細君の手へ渡してやりながら、彼は六ヶ敷い顔でそう言った。「ここだった」と彼は思った。灌木や竹藪の根が生なました赤土から切口・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・炎天を、神経質になって家探しや買物に歩き廻ったため、疲労で弱ってしまったのである。 引越しの日は、晴れて暑い残暑の太陽が、広い駒込の通りを、かっと照して居た。 午前中本箱や夜具、トランク類を、石井の荷物自動車にのせ、英男が面白がって・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
出典:青空文庫