・・・のみならず鬼が島に生き残った鬼は時々海を渡って来ては、桃太郎の屋形へ火をつけたり、桃太郎の寝首をかこうとした。何でも猿の殺されたのは人違いだったらしいという噂である。桃太郎はこういう重ね重ねの不幸に嘆息を洩らさずにはいられなかった。「ど・・・ 芥川竜之介 「桃太郎」
・・・佐橋甚五郎が小姓だったとき同じ小姓の蜂谷を殺害したそのいきさつも、その償として甲斐の甘利の寝首を掻いた前後のいきさつも、主人である家康の命には決してそむいていないのだが、やりかたに何とも云えぬ冷酷鋭利なところがあって、家康は手放しては使いた・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・それにむごい奴が寝首を掻きおった」 甚五郎はこのことばを聞いて、ふんと鼻から息をもらして軽くうなずいた。そしてつと座を起って退出したが、かねて同居していた源太夫の邸へも立ち寄らずに、それきり行方が知れなくなった。源太夫が家内の者の話に、・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫