・・・ 尊王 十七世紀の仏蘭西の話である。或日 Duc de Bourgogne が Abb Choisy にこんなことを尋ねた。シャルル六世は気違いだった。その意味を婉曲に伝える為には、何と云えば好いのであろう? アベは言下・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・その敬神尊王の主義を現したる歌の中に高山彦九郎正之大御門そのかたむきて橋上に頂根突けむ真心たふとをりにふれてよみつづけける吹風の目にこそ見えぬ神々は此天地にかむづまります独楽・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・そもそもの始りがです、維新の始、賊軍として、長い間反目されて居た此の東北地方に、尊王奉国の中心として大神宮を建てたらよろしかろうと云う有難い大御心から、わざわざ伊勢大廟の分祠として祭られたものなのですな、それを斯のように荒廃にまかせて置いて・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・的現実から時間的に乖離したのではなく、もっと悪どく当時の政権獲得運動者によって利用され、一般をその嵐にまき込み、しかも一時期の後、素早くそのイデオロギーの利用をすてたところもあるのではないでしょうか。尊王・攘夷という四字をいかにサツマの殿様・・・ 宮本百合子 「「夜明け前」についての私信」
・・・すなわち維新の原動力となった尊皇の情熱を、維新の当時に吹き込まれた。言いかえれば、政治の実権を武士階級の手に奪われてただ名目上の主権者に過ぎなかった皇室、その皇室に対する情熱を吹き込まれた。かくて父は、ちょうど頼山陽がそうであったように、足・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫