・・・人類の発展と幸福のために、真に貢献する学問と学問そのものの尊重の精神が確立されなければならない。このことは、民族の理性を守る仕事であり、人権擁護のためのたたかいのまぎれもない一面である。〔一九五〇年十二月〕・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・こんにちの社会で、理性ある平和を愛し、人間の尊重と発展とを願うひとは、ヒューマニティの課題として自身の幸福への欲求をも自覚しずにいられないのだから。 そこにこそ、このひとつらなりの長篇に力を傾ける作者の歓喜と信頼がかくされている。「二つ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『二つの庭』)」
・・・ それにもかかわらず、なお女同士の間には次第に社会的な基礎での友情がえられて来ているし、その質もおいおいたかめられ、それを評価し尊重することも学んで来ているのは、どういうわけだろう。そして、そういう成長のあとは、家庭にこもって、親や良人・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・で、社会に何の役にも立たない慾ばり婆々あに金を持たせて置くには及ばないと云って殺す主人公を書いたから、所有権を尊重していない。これも危険である。それにあの男の作は癲癇病みの譫語に過ぎない。Gorki は放浪生活にあこがれた作ばかりをしていて・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・たとい尊重して用いずにおくにしても、用いざれば死物である。わたくしは宝を掘り出して活かしてこれを用いる。わたくしは古言に新たなる性命を与える。古言の帯びている固有の色は、これがために滅びよう。しかしこれは新たなる性命に犠牲を供するのである。・・・ 森鴎外 「空車」
・・・しかし私はクノオ・フィッシェルの四冊になって出ているファウスト研究を最尊重する。そこであの本の内容をほとんど全部書いて「ファウスト考」と題して文芸委員会へ出して置いた。それから作者の伝記の方も、同じように専門的記載が際限も無いのは別として、・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
独断 芸術的効果の感得と云うものは、われわれがより個性を尊重するとき明瞭に独断的なものである。従って個性を異にするわれわれの感覚的享受もまた、各個の感性的直感の相違によりてなお一段と独断的なものである。それ故に文学上に於ける感覚・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・ここに我々は、実力格闘の体験のなかから自覚されて来た人格尊重の念を看取することができるであろう。彼はこういう道義的反省をも算用と呼んだのであった。家の中で非常に親しくしている仲であっても、公共の場所では慇懃な態度をとれとか、召使は客人の前で・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・それと同時に彼はまたいずれの茸がより多く尊重せられるかをも仲間たちから学んだ。年長の仲間たちがそれを見いだした時の喜び方で、彼は説明を待つまでもなくそれを心得たのである。 しかしそれは茸の価値が彼の体験でないという意味ではない。教え込ま・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
・・・大きい根を尊重することを知らない経営者の下にあっては、いかなる制度の改革も、ついに五十歩百歩に過ぎないだろう。七 教養は培養である。それが有効であるためには、まず生活の大地に食い入ろうとする根がなくてはならぬ。 人々はあ・・・ 和辻哲郎 「樹の根」
出典:青空文庫