・・・ 私たちが小さかった頃の読物は巖谷小波が筆頭で、どれもみな架空の昔風なお伽話であった。さもなければ、継母、継子の悲惨な物語か曾我兄弟のような歴史からの読物である。普通の子供が毎日経験している日常生活そのものを題材としてとりあげて、その中・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・求と一緒に、着実にその疑問の一筋を辿って、自分の道を進もうとしている作家の存在も、決して見のがすことは出来ず、そういう作家と、そのような作家を志して文学修業を怠らない人々とが、窮局において、世態の大波小波を根づよく凌いで、未曾有の質的低下を・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・『戦争文学』という雑誌が発刊されたり、小波の「軍国女気質」泉鏡花「満洲道成寺」という珍妙な小説が出たり、そういう世間の空気のなかで、出版界は、藤村の書く地味な小説などに興味を抱かない時代だというのが、藤村のその時代への感覚の一面であったのだ・・・ 宮本百合子 「作家と時代意識」
・・・小原壮助1/3が、七月十五日東京新聞の「大波小波」に「出版の自由か不自由か」という一文をかかげた。『新日本文学』六月号が掲載した、「サガレンの文化」の中で、ソヴェト同盟の権力の下では同人雑誌を出すことを許されないということを知った、「同・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・お伽話というものは、例えば巖谷小波がこの正月にラジオで放送したああいう山羊の仙人というような話は、子供の話としてソヴェトにはないわけである。何故ないかというと、そういう風な全然子供自身が大人から聞かなければ知らないような、そういう幻想、それ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・大抵巖谷小波の本であった。祖父の蔵書は後でどこかに寄附されたが、あのぎっしり並んで光っていた本箱の行方については全く知らない。 やがて『少女世界』が私の本という新鮮な魅力をもって一冊一冊とためられ、冬の縁側で日向ぼっこをしながらそれをあ・・・ 宮本百合子 「祖父の書斎」
・・・ 目に見えない※毛を金色に輝やかせながら、喉を張って歌う乙女の歌について、森じゅうの木々の葉と草どもが、小波のように繰返しをつけて行く。花は舞う。草木は歌う。勢づいた流れの水は、旋律につれて躍り上り跳ね上って、絶間ない霧で、天と地との間・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 大きな波のうねりになって押しよせて行く自分の心が浜の方で微妙な響と形で居る小波の様な両親の心とぶつかって水玉をとばしらせてそれと一緒になった時の気持はほんとうに口なんかじゃあ云えませんねえ。 嬉しい様な力強い様な勝ほこった様な――・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ けれ共一度寄せた大浪が引く様に高ぶった感情がしずまると渚にたわむれかかる小波の様に静かに美くしく話す、その自分の言葉と心理をどうにでも向けかえる事の出来るのを千世子は羨みもし又恐ろしい事だとも思った。 千世子の好いて居る詩人をすき・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
名を聞いて人を知らぬと云うことが随分ある。人ばかりではない。すべての物にある。 私は子供の時から本が好だと云われた。少年の読む雑誌もなければ、巌谷小波君のお伽話もない時代に生れたので、お祖母さまがおよめ入の時に持って来・・・ 森鴎外 「サフラン」
出典:青空文庫