・・・それにいろいろな雑誌の切抜きなどの整理新聞のせいり等、はっきりその必要とやりかたが分った折から、M子さんが小遣いも入用なので、一週定期的にセクレタリーをやってくれることになり、あなたからの本の御注文も古今未曾有のカード式整理方法によって整理・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・千鶴子の書いたもので読んだのは、彼女の小遣い取りの為、或る小さい刊行物へ圭子を通して載せて貰った漢文から種をとった短い教訓話だけであった。どこかひろがりと土台のある調子を感じた。はる子に対しても仕事の内容などについては口を緘していたのが愉快・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・汽車賃を貰って来て、無料で勉強して、十五ルーブリくらいずつ小遣いを支給されています。……きのう、私ども、あの人たちと美術館見学に行きましたよ。 ――大抵、党員なんですか? ――いいえ、いいえ! 薄い繭紬みたいな布で頭をつつんだ血・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・私の勢こんだ様子で、母は小遣いをくれというのかと思って警戒するのであった。 子供の時分から母と一番多く衝突をした娘である私、生活の上で一つ一つと心にのこるような大きい事柄では頑固な程母の期待とは違うように動かなければならなかった娘である・・・ 宮本百合子 「母」
・・・ 二十代のバルザックがまだ偽名であやしげな小遣いとりの小説を書いていた頃から彼を知っているサント・ブウヴなども自身の優秀な批評家としての感受性でバルザックの雄大さ、独特性、芸術上の追随を許さぬ成果を認めてはいるが、決してそれ以上の打ちこ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・「おばあさん一人のお小遣いだもん結構だわ」 暫く黙っていたが、せきは軈て、「作も仕様のない人間さ」と呟いた。仕事の為とは云いながら、小さい孫を押しつけて旅先に暮らすことの多い作造に不満を抱いているのだろうと志津は思った。全く・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫