・・・その時分、一番早く一本だちになって開業した女医さんである一人の仲間が、そういう場合、よくみんなのために尽力した。 十年が経ってゆくうちに、或るひとは結婚し、或る人は専門の職業で確立し、或るひとは更にこれまでの職業から、個性のより大きく生・・・ 宮本百合子 「図書館」
・・・やはり黄檗宗で、明の帰化人、陳冲の子頴川藤左衛門が尽力して盛大ならしめた寺だ。門前で俥を下り、高い石段を登りつめて甃の道を左に数歩行くと、大観門から左右に廻廊のある青蓮堂が眺められる。黒い甃と朱の建物が、明るい細雨に濡れて一種の美しさを漂わ・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・人民戦線が勝利して以来、フランス出版物の輸入をきびしく制限しつつ、何のために志賀高原のてっぺんに国際観光ホテルを建てて、外務省がそのために尽力しなければならないのであろうか。 国威ということが、昨今新しい内容でとりあげられている。そ・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・劇作家協会と小説家協会とを合同せしめ、新に文芸家協会を作ることに尽力す。この年、四十歳になったこの作者によって、初めての長篇小説「生きとし生けるもの」が東西朝日新聞に書きはじめられた。続いて幾多の戯曲と「波」「風」等の長編小説が発表された。・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・それは太田さんに尽力して貰って難有く思っていたので、何かの機会に公に鳴謝したいと思っていたからである。文芸委員会が私にその機会を与えてくれたのである。それ以上には何物も書き添えて無い。この極端な潔癖の結果として随分可笑しい事が生じた。それは・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
・・・物的価値に執する彼の態度への悪感から私はむしろそういう尽力を避けていました。そうしてこの私の冷淡は彼の態度をますます浅ましくしました。ここでもまた私は責めを脱れる事ができないのです。畢竟私の非難が私自身に返って来ます。 私は自分の思想感・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・慶長六年には彼はオルガンチノに対してキリシタンをほめ、その解禁のために尽力した。同十二年にも、パエスのために斡旋している。宣教師に対して、禁教緩和の望みがあるような印象を与えたのは、彼とその子息の上野守なのである。一向宗の狂信が依然として続・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫