・・・ いや、何んにつけても、早く、とまた屹と居直ると、女房の返事に、苦い顔して、横睨みをした平吉が、「だが、何だぜ、これえ、何それ、何、あの貸したきりになってるはずだぜ。催促はするがね……それ、な、これえ。まだ、あのまま返って来ないよ、・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・と云って雑所は居直る。話がここへ運ぶのを待構えた体であった。「で、ござりまするな。目覚める木の実で、いや、小児が夢中になるのも道理でござります。」と感心した様子に源助は云うのであった。 青梅もまだ苦い頃、やがて、李でも色づかぬ中は、・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・道理こそ、人の目と、その嘴と打撞りそうなのに驚きもしない、と見るうちに、蹈えて留った小さな脚がひょいと片脚、幾度も下へ離れて辷りかかると、その時はビクリと居直る。……煩って動けないか、怪我をしていないかな。…… 以前、あしかけ四年ば・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・作家が現実に居直ることと常識に居坐ることとの差は必ず読者の在りようを作家にとって内在的に変えるばかりでなく、照りかえしてゆくものと思う。〔一九四〇年五月〕 宮本百合子 「今日の読者の性格」
出典:青空文庫